近年、iPS細胞など全能性幹細胞からのin vitroでの配偶子形成が実現され、基礎医学・生物学領域のみならず医療応用の分野にまで極めて大きなインパクトを与えている。その一方で、得られた配偶子が正しく機能できるか否か、すなわち配偶子インテグリティーの評価には実際の発生の成否を調べるしかない。したがって、配偶子インテグリティーを事前に判断できるマーカー開発が切望されている。そのためには、1細胞単位でのタンパク質発現プロファイリングの開発が必要である。本研究では、われわれが独自に開発してきた革新的なタンパク質絶対定量法iMPAQT法をマウス卵子の1細胞プロテオームに適用し、配偶子インテグリティーの実体をタンパク質レベルで解き明かすことを目指す。本目的達成のため、H31年度は以下の3つの開発を実施した。 1)マウス対応iMPAQTデータベースの構築:マウスヒト卵子およびその初期発生過程から得られた試料を対象にdata-dependent acquisitionによるショットガンプロテオミクスを行い、マウス卵子のプロテオーム情報を取得し、これを格納したデータベースを開発した。現時点では深度(網羅性)がまだ不足しているため、再度解析を行う計画であるが、研究代表者の異動に伴い、装置の使用が一時的にできない状況が続いているため、次年度に持ち越して行う。 2)多重連結体による安定同位体標識プローブの大規模作製: 個々の連結体を識別できるペプチドバーコードの開発と、それを組み込んだベクターの作製を完了した。また、上記マウス卵子プロテオーム情報が十分に得られた時点で、連結体の大規模なデザインを開始する。 3)1卵子プロテオーム計測技術の開発:卵子1細胞等の超微量試料を対象としたプロテオミクス試料調製法の確立を行い、超高感度でプロテオーム解析を可能とする分析プラットフォームの構築に成功した。
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