1)解析プラットフォームの構築:マウス配偶子の解析を行うためにマウス版iMPAQTの整備を行なった。マウスの卵および胚を用いて、データ依存分析による分析を行うことで2000種類以上の卵子関連タンパク質を同定した。これらのデータに加えて、これまでヒトで取得しているデータの中からマウスと相同であるペプチドを選定し併せることで、マウス版iMPAQTデータベースを構築した。また、配偶子インテグリティマーカー候補タンパク質での染色性を元に卵子を分離し、プロテオーム解析が可能なように、細胞固定条件の最適化やタンパク質抽出や酵素消化効率の最適化を実施した。その結果、質量分析計におけるタンパク質同定において、非固定細胞とほぼ同等の結果が得られる条件を見出した。さらに、データ非依存取得(DIA)と呼ばれる質量分析の手法をiMPAQTの解析プラットフォームに取り入れた。また、高周波数FT型質量分析計を用いたDIAモードの利用と、DIA-NNと呼ばれる解析ソフトウェアを併用することで、従来のFT型質量分析計の倍近くのタンパク質同定が可能になることが判明した。 2)マウス卵子プロテオーム解析の実施: 上述の解析プラットフォームの構築過程では検証や最適化を目的としているため簡単に利用可能な培養細胞を用いて、十分な量の出発材料で実施している。マウス卵子など簡単に大量に集めることができない試料では、最適化された条件で試料調製を実施する必要がある。そこで、実際にマウス50卵子を採取し、これを出発材料として、試料調製を行い、質量分析による定量解析を行なった。その結果、50細胞から1300-1500種類のタンパク質の定量が可能であることがわかった。同定・定量された卵子タンパク質の中には通常の体細胞ではほとんど発現していないようなタンパク質が多数見出され、卵子におけるプロテオームの組成は極めて特徴的であることが明らかとなった。
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