研究領域 | 配偶子インテグリティの構築 |
研究課題/領域番号 |
19H05248
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
重信 秀治 基礎生物学研究所, 新規モデル生物開発センター, 教授 (30399555)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 共生 / 生殖細胞 / シングルセルRNAseq / マイクロインジェクション |
研究実績の概要 |
私たちは昆虫アブラムシの生殖細胞の形成に共生細菌が必須であることを発見した。アブラムシはブフネラと呼ばれる細胞内共生細菌と絶対共生の関係にあるが、共生細菌を除去すると、宿主昆虫の始原生殖細胞は消滅する。本研究の第一の目的は、共生細菌による宿主生殖細胞のインテグリティの構築とその制御機構を解明することである。特にアミノ酸やシグナル伝達パスウェイに着目し、候補分子や阻害剤の投与によってその宿主PGCへの影響を調べる。今年度は、新しく着任したポスドクによって、候補分子や阻害剤を直接体内に顕微注入する実験手法を開発することに成功した。この技術を利用して、多様な組成の人工培地を注入し、生殖細胞形成の影響を観察した。シグナル伝達の中ではinsulinパスウェイに着目して解析している。さらに、生殖細胞の細胞分裂をEdUで検出する系も確立することができた。第二の目的は、生殖細胞のインテグリティとは何か、その分子実態の理解を目指すことである。この小課題ではインテグリティレベルの異なるPGCのトランスクリプトームを比較することにより、インテグリティの実態を分子レベルで明らかにすることを目標としているが、現時点でアブラムシの生殖細胞のみを単離する技術は存在しない。そこで、何らかの方法で生殖細胞をエンリッチさせたサンプルのシングルセルRNA-seqを行い、得られたデータからマーカー遺伝子の発現から事後的に生殖細胞を同定するという戦略をとる。しかし、シングルセルRNA-seqはサンプル調製の難易度が高い挑戦的な実験である。今年度は、アブラムシ全身を使って、細胞解離、セルソーターによる細胞単離、シングルセルRNAseqライブラリ構築の一連のプロトコルをほぼ確立することができた。今後、開発した手法でデータ収集を継続し、得られたデータに基づき、配偶子インテグリティを異種間相互作用の視点から考察する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本科研費で新しく雇用したポスドクの貢献もあり、生体への顕微注入、EdU解析、シングルセルRNAseqなど、いずれも難易度が高いにもかかわらず、本課題のコアテクノロジーを1年目にほぼ確立することができた。今後これらの技術を使ってデータを産出し、得られたデータに基づき、配偶子インテグリティを異種間相互作用の視点から考察することが可能になると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
アブラムシと共生細菌ブフネラの細胞内共生をモデルに、2つの研究を行う。アブラムシの生殖細胞の形成およびインテグリティの構築に共生細菌が必須であるという興味深い現象を発見したが、そのメカニズムは不明である。そこで、研究1では、共生細菌による宿主生殖細胞(PGC)のインテグリティの構築とその制御機構を解明する。Candidateアプローチとしては、アミノ酸やinsulin等シグナル伝達パスウェイに着目する。昨年度確立した顕微注入技術などを用いて解析を継続する。網羅的アプローチとしては、以下に述べる研究2のトランスクリプトームデータからデータマイニングする。研究2では、アブラムシ生殖細胞のインテグリティの実態を分子レベルで理解する。抗生物質で共生細菌の数を人為的に操作することにより、間接的に宿主生殖細胞のインテグリティのレベルを制御する。これらインテグリティレベルの異なるPGCのトランスクリプトームを比較することにより、インテグリティの実態を分子レベルで明らかにする。そのためにシングルセルRNA-seqを行う。昨年度シングルセルRNA-seqの条件検討を行い最適な条件が見つかったことから、今年度はその条件でデータの収集を進める。得られるRNA-seqデータとインテグリティの定量データ(vasaやnanos遺伝子の発現量やapoptosisの表現型など)を統合的に解析することにより、インテグリティレベルと相関の高い遺伝子群が得られるが、それらがPGCインテグリティのマーカー遺伝子の有力候補である。さらに、最近私たちの研究室はアブラムシのゲノム編集技術の確立に成功した。この技術により候補遺伝子の機能解析を行い、PGCインテグリティの決定遺伝子を同定する。
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