公募研究
哺乳類のゲノムから産生される多数の長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)にうち、一群のものは、核内で相分離構造体の必須の骨格としての役割を担う。lncRNAはゲノムの特定の位置で転写され、その場で機能分子として作用するため、ゲノム位置を規定する因子として適しており、ゲノム構造の制御因子として必須の役割を持つと考えられる。しかし、このようなRNAにより誘導される相分離構造体を介した遺伝子発現や3次元ゲノム動態の制御機構は明らかになっていない。そこで、本研究では、NEAT1 lncRNAにより誘導される核内相分離RNP構造体パラスペックルをモデルとして、その機構の解明を目指す。特に、パラスペックルによる遺伝子発現やゲノム構造への影響を解析し、その背後にある分子基盤の特定を進めることを目的とした。今年度は、NEAT1を効率的にノックダウンするレンチウイルスを用いた実験系を構築し、癌関連ストレス条件下における遺伝子発現によるNEAT1の寄与をRNA-seqを用いて解析した。その結果、ストレス応答性の遺伝子群におけるNEAT1の重要性が明らかになった。また、NEAT1がゲノム構造へ影響を与えていることを示すデータを得ている。さらに、RNAがRNAポリメラーゼにより転写された際に形成される相分離機構を、ソフトマター物理学の理論を用いて、理論的な枠組みを構築した。これにより、転写ダイナミクスとRNAにより誘導される相分離構造体形成を理解するための重要な理論的基盤が形成できた。
2: おおむね順調に進展している
研究室の引越しやコロナによる影響はあったものの、NEAT1による遺伝子発現制御機構について、計画していた実験を進め、結果が得られてきたこと、さらに理論物理学によるRNA誘導性の相分離のフレームワークの構築も進めることができたことから、以上のように判断した。
パラスペックルによる遺伝子発現制御の分子基盤を詳細に解析する。この際、RNAポリメラーゼの制御における役割にも注目する。ソフトマター物理学によるパラスペックルの構築過程をモデル化し、理論と実験の両面からパラスペックルの特徴的な形態や機能が生み出されるかを理解する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (2件) 備考 (1件)
Biochimica et biophysica acta. Gene regulatory mechanisms
巻: 1863 ページ: 194480
10.1016/j.bbagrm.2020.194
Cold Spring Harbor symposia on quantitative biology
巻: 84 ページ: 227-237
10.1101/sqb.2019.84.039404
Mol Cell
巻: 74 ページ: 951-965
10.1016/j.molcel.2019.03.041.
Wiley Interdiscip Rev RNA.
巻: 10 ページ: e1545
10.1002/wrna.1545.
http://hirose-lab.com/