近年、生物顕微鏡の技術が飛躍的に進歩している。しかし、その中にも、細胞内部を分子レベルで画像化する方法は存在しない。そこで、研究代表者らは 15 年かけて、このような画像化 ができるクライオ蛍光顕微鏡の開発をおこなってきた。その結果、2017 年に、蛍光色素 (ATTO 647N)の三次元位置を精度 1 nm で1 分子観測することに世界ではじめて成功した。この 実験は細胞外で行われたものである。本研究の目的はこの技術を細胞内部の観察に応用することで、前人未踏の細胞内部の分子レベルイメージングを実現することである。 上記のような目的に対して、2020年度はクライオ条件における細胞内観察に不可欠の可変浸レンズを開発した。厚みのある生体試料の観察には球面収差と呼ばれる大きな収差により画像が歪むことが知られている。可変浸レンズはこの球面収差をゼロに出来る光学素子である。我々は当該領域の研究代表である木村宏博士と共同して、可変浸レンズの実証をおこなった。その結果、実証に成功し、原著論文も報告している。さらに、2019年度に報告した「1分子ナノスコピー」の続報として、DNAオリガミを用いて定量的に1分子ナノスコピーの結果をまとめた原著論文を報告した。さらに、細胞内観察に不可欠な技術として、蛍光プローブの開発にも挑戦した。その結果、非特異的吸着が少ない蛍光プローブの開発に成功した。いよいよ、この3つの技術を用いて、来年度は前人未踏の細胞内部の分子レベルイメージングを実現する。
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