研究領域 | 遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル |
研究課題/領域番号 |
19H05256
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
廣田 順二 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (60405339)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 転写調節配列 / エンハンサー / 嗅覚受容体 / 多重遺伝子 / 遺伝子発現制御 / 遺伝子クラスター |
研究実績の概要 |
脊椎動物の嗅覚受容体は大きくクラス1とクラス2の2つに分類される。クラス1嗅覚受容体は、魚類から哺乳類に至る脊椎動物に共通して存在するタイプである。マウスでは、機能的クラス1嗅覚受容体遺伝子は129個あり、第7染色体上に巨大な遺伝子クラスターを形成する。クラス1嗅覚受容体遺伝子の転写調節配列として我々が同定したJ elementは、この巨大遺伝子クラスター全体を制御しており、制御する”遺伝子数”と”ゲノム上の距離”の両方において他に類を見ない規模で遺伝子発現を制御する。興味深いことにクラス1嗅覚受容体遺伝子クラスターは、βグロビン遺伝子クラスタを内包する。両遺伝子クラスターともに転写調節配列が、クラスター内の単一遺伝子発言を活性化するという特徴を有する。本研究では、進化的に保存された2つの遺伝子クラスターの機能的相互作用の解析を通じ、J elementの超長距離作用性を可能にする分子基盤を明らかにするとともに、クラス1嗅覚受容体とβグロビン、2つの遺伝子クラスターが織りなすクロマチンポテンシャルを解明することを目的とした。 まず、2つの遺伝子クラスター間のクロマチンポテンシャルの機能的クロストークの解明を目的とし、クラス1嗅覚受容体クラスター欠失変異マウスと嗅神経細胞特異的βグロビンクラスター欠失マウスの作出をおこなった。2019年度には、βグロビンクラスターのテロメア側にあるクラス1嗅覚受容体クラスター(1.3Mb)の作出に成功したが、セントロメア側のクラス1嗅覚受容体クラスター(1.5Mb)の欠失変異を得られていない。 また、J element(1.3 kb)の解析をさらにすすめ、1.3 kbのJ element配列内の330 bpがクラス1嗅神経細胞特異的なエンハンサー活性に必要十分であること明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画していた遺伝子改変マウスの作出に遅れがでている。具体的には、クラス1嗅覚受容体遺伝子クラスター欠失マウスの作出においては、セントロメア側のクラスター欠失変異が得られておらず、欠失変異が致死性を有する可能性が考えられる。一方、嗅神経細胞特異的βグロビン欠失変異マウス作出のため、βグロビンクラスターの両端にloxP配列を挿入する変異マウスの作出をおこない、片側のloxP配列の挿入が完成した。
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今後の研究の推進方策 |
クラス1嗅覚受容体遺伝子クラスター欠失マウスの作出においては、セントロメア側のクラス1嗅覚受容体クラスター欠失変異が致死となる可能性が考えられたため、その原因究明のために、1.5 Mbのクラスター全体を一度に欠失するのではなく、徐々に欠失変異を導入する予定である。 一方、嗅神経細胞特異的βグロビン欠失変異マウスの作出については、βグロビンクラスターの片側にloxP配列を挿入したマウスを繁殖させたのちに、目的の変異マウスの作出を完成させる。
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