マウスのクラス1嗅覚受容体遺伝子は129個あり、第7染色体上に巨大な遺伝子クラスターを形成する。クラス1嗅覚受容体遺伝子の転写調節配列として我々が同定したJ elementは、この巨大遺伝子クラスター全体を制御しており、制御する”遺伝子数”と”ゲノム上の距離”の両方において他に類を見ない規模で遺伝子発現を制御する。しかし、J elementの超長距離作用性の分子機構は明らかになっていない。本研究では、まずJ element(1.3 kb)の機能解析をさらにすすめ、J element配列内の330 bp(Core J element)がクラス1特異的なエンハンサー活性に必要十分であること明らかにした。Core J elementのモチーフ配列解析の結果、 O/E-like配列とホメオドメイン配列からなるCompositeモチーフがエンハンサー活性に必須であった。 クラス1嗅覚受容体クラスターは、βグロビンクラスターを内包する。J elementの超長距離作用性を可能にする分子基盤を明らかにするため、進化的に保存された2つの遺伝子クラスターの機能的相互作用の解析をおこなうこととし、クラス1嗅覚受容体クラスター欠失変異マウスと嗅神経細胞特異的βグロビンクラスター欠失マウスの作出をおこなった。これまでにβグロビンクラスターのテロメア側にあるクラス1嗅覚受容体クラスター(1.3Mb)欠失マウス、嗅神経細胞特異的βグロビンクラスター欠失マウスの作出に成功した。一方、セントロメア側のクラス1嗅覚受容体クラスター(1.5Mb)の欠失変異は胎生致死であったため、クラスター内に存在する嗅覚受容体遺伝子以外の遺伝子を残しつつ、クラス1嗅覚受容体クラスターを欠失させることにした。今後、これらのクラスター欠失マウスにおける遺伝子発現解析を行い、2つの遺伝子クラスター間の機能的相互作用を明らかにする。
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