研究領域 | 遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル |
研究課題/領域番号 |
19H05258
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
笹井 理生 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (30178628)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ゲノムシミュレーション / ゲノム立体構造 / 統計物理モデル |
研究実績の概要 |
本研究では、実験グループによってゲノム規模で測定された1分子ヌクレオソーム運動を、ベイズ統計に基づく自己無撞着計算によって解析し、ヒト細胞のクロマチンは、速く運動するクロマチンと遅く運動するクロマチンの2タイプに大別されることを示した。コヒーシン阻害によって遅く運動するクロマチンが減少することなど、細胞への摂動によってゲノム動態が大きく変更すること、運動の成分ごとの解析によって、ゲノム動態の変化についてさらに深い理解が可能であることを示すとともに、1分子ヌクレオソーム運動データの統計解析から、それぞれのタイプのクロマチンの動的ドメインの存在を示した。 また、転写装置に束縛されるクロマチン運動を動力学計算によって表現し、実験グループと共同で、転写活性がクロマチン運動を遅くするという発見に導いた。クロマチンの局所物性を反映した不均一な斥力がクロマチン相分離を招き、この相分離がゲノムアーキテクチャを生成するという新しい原理を提唱して、ゲノム動力学計算法の開発を行った。 さらに、クロマチンの局所物性が染色体の大域的構造を決める効果を示す例として、Hi-C コンタクト行列の対角線付近(配列に沿って100 kb程度離れた場所どうしの接近頻度)から得られる指標、Neighboring region Contact Index(NCI)が染色体全体のコンタクト行列を対角化して得られるA/B コンパートメント指標と定量的に一致することを発見し、NCIが細胞の状態やタイプの違いを表す指標として有用であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験グループと協力し、ゲノム構造と運動が転写に関わる液滴形成と深い関係にあることを示し、大きな反響を得た。また、ゲノム運動と転写を解析するためにベイズ統計の方法を用い、遅く動くクロマチンと速く動くクロマチンの共存を発見し、それぞれのタイプのクロマチンの動的ドメインの存在を示した。プレスリリースを行って、これらの成果を社会に向けて発信した。
また、NCIの発見について第1 回クロマチン潜在能ワークショップ(2019 年6 月蒲郡)での報告を行い、報告者の藤城氏は優秀ポスター賞を受賞した。国際会議(International Conference on Biological Physics2019, Madrid)においてクロマチンに関するセッションを企画した。
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今後の研究の推進方策 |
実験グループと協力して、1分子ヌクレオソームの観測データを統計的に解析し、細胞機能とクロマチン運動の関係を解析するとともに、ゲノム立体構造計算法を整備して、ゲノム希望におよぶクロマチン運動と転写の関係を分析する。
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