前年度に開発したベイズ統計に基づく自己無撞着計算によって、本年度は、実験グループによってゲノム規模で測定された1分子ヌクレオソーム運動を短時間と長時間の2成分を用いて解析し、ヒト細胞のクロマチンは、速く運動するクロマチンと遅く運動するクロマチンの2タイプに大別されることを示して、転写阻害によるそれぞれの運動成分の変化を定量的に解析した。 また、クロマチンの局所物性を反映した不均一な斥力がクロマチン相分離を招き、この相分離がゲノムアーキテクチャを生成するという新しい原理に基づくゲノム動力学計算法の開発・整備を行い、ゲノムにおけるクロマチン運動を解析して、クロマチンドメインの存在について統計的に調査を行った。 さらに、クロマチンの局所物性が染色体の大域的構造を決める効果を示す例として、Hi-Cコンタクト行列の対角線付近(配列に沿って100kb程度離れた場所どうしの接近頻度)から得られる指標、Neighboringregion Contact Index(NCI)を複数の細胞について比較し、大腸ガン細胞HCT116が正常な細胞と異なる様相を示すことなど、NCIが細胞の状態を表す適切な指標であることを示した。 この他、転写によって生成されたmRNAが核内を拡散して、核膜孔から核外に輸送される過程について、クロマチン動力学計算によるシミュレーションを行った。核内にRNA 輸送の道筋が形成される過程と、クロマチンの分布が変化する過程が協調して動的に起こることを示すデータを得て、さらに統計的解析を行った。
|