発生初期の核は、比較的密度の低い一様なクロマチン構造を形成するが、何回か細胞分裂を経ると、密度の高いクロマチン領域が形成されるようになる。本年度は、クロマチンブラシの翻訳語修飾のダイナミクスのモデルの構築を行った。ヒストンテイルの翻訳語修飾の酵素反応ダイナミクスをミカエリスーメンテン則で記述した。ヌクレオソームと結合するタンパク質は、ヒストンテイルの修飾状態に依存する。特に、メチル化したヒストンと結合するHP1タンパク質は、高濃度下で相分離する傾向があり、ヘテロクロマチン形成に重要な役割を果たす。簡単のために、ヌクレオソームの間の相互作用を表す排除体積がヒストンテイルの修飾状態に依存する関数であるとして、ヌクレオソームと結合するタンパク質の自由度は明示的に取り扱わなかった。核膜近傍のクロマチンを高分子ブラシとしてモデル化し、定常状態でのヒストンテイルの修飾状態の解析を行いながら、モデルの修正を行った。 一方、2019年の「クロマチン潜在能」領域会議で初めて会った山崎智弘講師と廣瀬哲郎教授(北海道大学)とパラスペックルの形成原理に関して共同研究を開始した。パラスペックルはNEAT1_2と呼ばれるRNAとタンパク質の複合体によって形成されており、転写サイト付近でよく観察される。高分子溶液の相分離の標準的な理論であるFlory-Hugginsの理論を、転写ダイナミクスによるNEAT1_2の生成ダイナミクスを考慮に入れて拡張し、転写によって相分離が駆動されることを理論的に示した。
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