研究領域 | 遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル |
研究課題/領域番号 |
19H05260
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
寺川 剛 京都大学, 理学研究科, 助教 (20809652)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | コンデンシン / ヒストン化学修飾 / ヌクレオソーム / 1分子蛍光顕微鏡観察 / DNAカーテン / 染色体凝集 |
研究実績の概要 |
真核生物の遺伝子発現は、クロマチン構造によって制御されている。一方、クロマチン構造は、ヒストンの化学修飾によって制御されている。有糸分裂期には、ほとんどの遺伝子発現が停止することが知られているが、一部の遺伝子(リボソーム遺伝子)の発現は停止しないことがわかってきた[Chen et al. J Cell Biol (2005) 168:41]。①有糸分裂期のクロマチン構造はコンデンシンとよばれるタンパク質によって制御されていることが知られている。また、②リボソーム遺伝子領域のクロマチンの構造変化はヒストンの化学修飾(H3K4me3)によって制御されていることがわかってきた。しかし、これまでの研究では、①と②の関係は明らかになっていない。そこで、本研究の目的は、「ヒストンの化学修飾」と「コンデンシンが引き起こすクロマチン DNA の構造変化」の関係を明らかにすることである。これにより、有糸分裂期のクロマチンポテンシャル(クロマチン構造による遺伝子発現の制御)の分子機構を明らかにする。 本研究では、λファージのゲノムDNAと化学修飾したヒストンでヌクレオソームを形成させ、そこにコンデンシンをロードして、DNAの構造変化を一分子蛍光顕微鏡観察する。本年度は、この実験を行うためのマテリアルを準備した。具体的には、ヒストンタンパク質の単離・精製、ヌクレオソームの再構成、そしてコンデンシンの単離・精製を行った。また、再構成したヌクレオソームを1分子蛍光顕微鏡観察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒストンタンパク質のクローニング、並びに単離・精製を行い、SDS PAGEで確認した。H2Aの蛍光標識可能な変異体についてもクローニング、並びに単離・精製を行った。ヒストンタンパク質はプラスミドのT7プロモータの下流にクローニングし、大腸菌で強発現させた。発現したタンパク質を、封入体からイオン交換カラムクロマトグラフィによって単離・精製した。 単離・精製したヒストンタンパク質を混ぜて透析による溶液交換を行うことによって、ヒストン8量体を形成させた。その後、ヒストン8量体とλファージのゲノムDNAを混ぜて塩透析を行うことによってヌクレオソームを形成させた。DNA上にヌクレオソームが形成したことをMNaseアッセイによって確認した。1本のDNAに1-2個のヌクレオソームが形成されるようにヒストンタンパク質の濃度を調整した。 ヌクレオソームを蛍光標識した。その際、Alexa Fluor 647 C2 Maleimideを、遺伝子改変したH2Aのシステイン残基に結合させた。そして、そのDNAを用いてDNAカーテンを作成し、蛍光信号を全反射蛍光顕微鏡を用いて観察することができた。上述のMNaseアッセイでは1本のDNAに1-2個のヌクレオソームが形成していることが示唆されたが、顕微鏡観察では1個のヌクレオソームも形成していないDNAが多数観察された。 蛍光標識可能なコンデンシンの変異体の単離・精製を行い、SDS PAGEで確認した。コンデンシンはプラスミドのGALプロモータの下流にクローニングし、酵母で強発現させた。発現したタンパク質をHis-Trapカラム・Strep-Tactinカラム・タグ・ゲルろ過カラムクロマトグラフィによって単離・精製した。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、本研究では、λファージのゲノムDNA上にヌクレオソームを形成させたが、MNaseアッセイでは1本のDNAに1-2個のヌクレオソームが形成していることが示唆されたのに対し、顕微鏡観察では1個のヌクレオソームも形成していないDNAが多数観察された。これは、Alexa Fluor 647 C2 Maleimideのヒストンへの結合効率が悪いことに起因すると考えられる。そこで、現在、Flag・HAタグ付きの変異体のクローニングを行っているところで、今後、単離・精製を行う。 また、H4K16がアセチル化されたヒストンタンパク質の全合成を行い、それを用いてヌクレオソームの再構成を行う。H4K16Acは間期に多く存在するヒストン修飾で、コンデンシンによるM期の染色体構造形成を妨げているのではないかと考えられている。本研究ではこの化学修飾がコンデンシンによる染色体凝集反応に及ぼす影響をDNAカーテン報を用いた1分子蛍光顕微鏡観察を用いて調べる。 さらに、精製したコンデンシンをヌクレオソームDNA上にロードして染色体凝集の1分子蛍光顕微鏡観察を行う。化学修飾されていないヒストンを用いて形成させたヌクレオソームDNAと化学修飾されたヒストンを用いて形成させたヌクレオソームDNAの凝集の速度をそれぞれ測定し比較する。また、染色体凝集後に、高塩濃度溶液でコンデンシンを洗い流し、DNAの凝集体の安定性を評価する。
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