研究領域 | 遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル |
研究課題/領域番号 |
19H05264
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
加藤 太陽 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 助教 (40548418)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ヌクレオソーム / エピジェネティクス / DNA / ヒストン |
研究実績の概要 |
本研究課題は、細胞内ヌクレオソームの動態を、DNA部分配列の視点から明らかにすることを目的としている。まず、塩基対解像度の細胞内ヌクレオソームマップがヌクレオソームの部分配列をどの程度説明できるかを知ることを目的として、ヌクレオソーム配置予測ソフトウェアnuCposによって、人口配列Widom 601のDNA配列を調査した。左半分のDNA配列は試験管内の回転設定において相性が最大になるが、右半分のDNA配列は回転設定を固定する要素に乏しいことが示唆され、塩基対解像度のモデルはこれまでの知見をうまく説明できることがわかった。一方で、既存のケミカルマッピング法で得られたデータの詳細な解析により、これらのメソッドは局所的な化学的切断バイアスを持ち、「位置的に安定なヌクレオソーム」の選定に必ずしも向かないことが明らかとなった。これを受けて、明星大学清水研で開発中の新規化学切断法に注目し、新規ケミカルマッピング法の開発に取り組んだ。様々なヒストン変異による化学切断産物のシーケンシング解析の結果、ヌクレオソームのDNAラッピングに依存したマッピング法を確立することに成功した。ヌクレオソームDNA内部に切断バイアスを持たないマップを解析したところ、内部配列に位置特異的かつ方向特異的に存在するエレメントが、DNAのラッピングと負に相関することが明らかとなった。さらに、細胞内のヌクレオソームにおいてDNAストレッチングが起きていることを示唆する結果を得た。これらの結果は、細胞内ヌクレオソーム動態制御におけるヌクレオソームDNA部分配列の貢献を理解する上で重要な基盤情報になると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画ではヒストンH4のS47C変異を利用して得られたケミカルマップを情報基盤として戦略を立てていたが、H4-S47Cメソッドによる化学的切断部位を詳細に調査することで、実はこれらの変異による切断は周辺のDNA配列に強く依存することが明らかとなり、戦略の立て直しを余儀なくされた。幸いなことに、以前から共同研究を重ねてきた明星大学清水研で開発中の化学切断産物を詳細に調査する機会に恵まれ、結果として、新規のマッピング手法を確立し、ヌクレオソームDNAの内部塩基配列とDNAラッピングの関係について、上記概要の知見を得ることができた。しかし、当初計画にあった変異解析については、in silico研究基盤の開発に時間がかかったことから未着手であり、今後の課題であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度はDNAラッピングと負に相関するエレメントを見出したが、これはヌクレオソームの動的制御と関連する可能性が高い。今後は、より包括的に正負に相関するエレメントを探索し、転写伸長領域に存在するヌクレオソームや、転写調節因子などのシス因子が作用するヌクレオソームを対象に、見つかったエレメントがどう寄与しているかを調査する。また、DNAストレッチングを示唆する断片に富むヌクレオソームについて、それが何らかの細胞内機能と関連するかを調査する。
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