研究領域 | 遺伝子制御の基盤となるクロマチンポテンシャル |
研究課題/領域番号 |
19H05266
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
今野 大治郎 九州大学, 生体防御医学研究所, 准教授 (00362715)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 神経幹細胞 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
マウスES細胞を用いた大脳オルガノイド培養系を用い、未分化ES細胞から大脳皮質神経幹細胞への分化に至る時系列での網羅的オープンクロマチン領域解析(ATAC-Seq)を行った。その結果、大脳皮質神経幹細胞に特異的に発現する遺伝子群(Emx1/2およびDmrt関連因子など)の近傍ゲノム領域において、大脳皮質への分化に依存してクロマチンが開放状態へと変化する領域を複数同定した。これらの配列の一部は、遺伝子発現リポーターを用いた解析から、大脳皮質特異的エンハンサー活性を有することがわかった。また同サンプルの網羅的遺伝子発現解析(BRB-seq)を並行して実施し、クロマチン構造変化と遺伝子発現制御の関連性について時系列を追って比較検討した。その結果、クロマチンの開放は遺伝子発現と同時もしくはそれに先行して認められた。現在、ATAC-seqで明らかになった大脳皮質に特徴的な開放を示すゲノム領域について、少数細胞エピゲノム解析技術(ChIL)を用い、クロマチンの開放に先行して起こるヒストン修飾およびヒストンバリアント置換の同定を試みている。また、前述のATAC-seq解析により明らかになった大脳皮質分化に特徴的なクロマチン構造の変化を誘導する因子の同定を試みた。まずモチーフ解析(chromVAR)により、前述した特徴的開放を示すゲノム領域に存在する転写因子結合モチーフ配列の同定を試みた。さらにそれらの各分化段階における集積を検討した。その結果、大脳皮質分化に特徴的な構造変化を示したゲノム領域において、パイオニア転写因子として機能することが知られているTcf/Lef転写因子やNeurogeninなどのbHLH型転写因子の結合モチーフ配列の集積が認められた。現在、これら転写因子を含む制御候補分子の機能阻害および異所性・異時性発現が細胞記憶に及ぼす影響を解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画に従い未分化ES細胞から大脳皮質神経幹細胞への運命決定に至る時系列での網羅的オープンクロマチン領域解析(Assay for Transposase- Accessible Chromatin Sequencing:ATAC-Seq)を行い、大脳皮質への運命決定に依存してクロマチが開放状態へと変化するゲノム領域が複数同定出来た。これらの結果は、遺伝子発現と同時もしくはそれに先行したエンハンサー領域の開放およびその維持が、遺伝子発現の記憶に重要な役割を果たすことを示唆しており、研究計画の着実な実施の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
ATAC-seqで明らかになった分化に依存して開放状態へと変化するゲノム領域について、各種ヒストン修飾およびヒストンバリアント抗体を用いた少数細胞エピゲノム解析技術(ChILT: Chromatin Integration Labeling Technology)を応用することにより、遺伝子発現の記憶形成前後で変化するヒストン修飾およびヒストンバリアントを同定する。さらにそれらをゲノム全体での解析に広げ、細胞記憶獲得前後で起こるエピゲノム情報の変化をゲノムワイドに明らかにする。
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