遺伝子の発現は様々なクロマチンレベルでの制御によって調節されている。特に、生殖細胞系列や胚発生初期に発現が誘導される遺伝子の多くは、成体の細胞においてその発現が強固に抑制されている。しかし、体細胞核の初期化を誘導することにより、それらの遺伝子が再活性化されることが知られている。これを転写リプログラミングといい、遺伝子発現制御に関わるクロマチン構造を知る上で重要な現象である。転写リプログラミングは、体細胞核をカエル卵母細胞内へと移植することによって誘導可能である。しかし、転写リプログラミング過程で起こる体細胞クロマチン構造の変化についての知見は未だ乏しい。そこで本研究では、カエル卵細胞への体細胞核移植系を用いて、転写リプログラミングが引き起こされるまでに、遺伝子発現抑制機構が初期化される過程を精査した。具体的には、核移植後から転写リプログラミング誘導までの期間(24時間以内)を初期、中期、後期と分け、それぞれの時期におけるクロマチン構造の階層的な変化を、ヘテロクロマチンあるいはユークロマチンの形成に関わるタンパク質の局在に着目してライブセルイメージングで観察した。これらの実験を通じ、リプログラミングに伴い、HP1α/βが急激に解離する特定の時期を発見した。また、ヘテロクロマチンタンパク質の消失後にユークロマチンタンパク質の体細胞核への取り込みが促進されることも明らかにした。新規領域が採択されたことにより本研究課題は中止となるが、引き続きヘテロクロマチンの急激な消失を可能とする分子機構と転写活性化との関係性について研究を進めていく予定だ。
|