転写装置の要であるRNAポリメラーゼII(RNAPII)の除去が、クロマチン動態へ及ぼす影響を計測するため、まずRNAPIIを除去するタイプの転写阻害剤であるa-amanitinでヒトRPE1細胞を処理した。するとヌクレオソームの動きは上昇した。さらに、遺伝研・鐘巻らの協力でAID法によるRNAPIIの迅速除去をおこなった。その結果、同様にヌクレオソームの動きが顕著に上昇した。RNAPII活性化の指標であるCTDのSer5リン酸化の阻害剤でも同様の結果が得られている。また、活性化型RNAPIIをクロマチン上にストールさせるactinomycinDでは動きが抑えられた。一方、S期においてDNA複製装置を破壊しても、ヌクレオソームの動きに顕著な違いは検出されなかった。このため、単に巨大な装置がクロマチンに結合することによりクロマチンの動きが低下するわけではないことが明らかとなった。
活性化型RNAPIIの除去がクロマチン動態に与える影響を定量的に計測するため、公募班の名古屋大・笹井らと共にクロマチン動態のポリマーシミュレーションを行った。100kbのクロマチンドメインをバネで連結し、転写ハブを配置した。活性化型RNAPIIがクロマチンとハブの間の一過性の結合を媒介する。このブラウン動力学シミュレーションでは、活性化型RNAPIIを追加すると、予測通りクロマチンの動きは減少し、仮説が確かめられた。さらに笹井らと共に、ゲノムワイドな単一ヌクレオソームの動きデータを統計的に解析する手法を開発した。この手法により、核内のヌクレオソームの動きの多様性が明らかとなった。クロマチンがコヒーシンなどのクロマチン構造タンパク質や転写装置など、様々な要因で束縛され、動きが遅くなっていることが示唆された。
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