公募研究
我々は最近、細胞生死に関わるシグナル分子と複数のユビキチン化関連酵素が複合体を形成し、相互に活性制御を行うことによって、細胞生死シグナルのバランスが微調整され、刺激に応じた適切な細胞応答が誘導されるという仕組みを見出した。癌や自己免疫疾患等は、そのバランスの破綻で起こる過剰な細胞死や増殖が原因で生じる。このような複数のユビキチン化関連酵素同士の相互作用には、ユビキチン化やSUMO化等の修飾が必須であり、これらの修飾の制御によって過剰な細胞死や増殖を抑制し、癌や自己免疫疾患等の疾患治療が可能となる。そこで本研究ではケモテクノロジーを活用し、ユビキチン化関連修飾とユビキチン化関連酵素を含むシグナル分子との相互作用などを正・負に適切に調節することで、生死のシグナルバランス制御を介して過剰な細胞死・増殖を抑制し、癌や免疫疾患等に対する、新たな疾患治療戦略の開発を目指した。まず本研究成果として、ユビキチン化関連分子の相互作用を介した細胞生死シグナルのバランス制御機構について、我々が独自に見出したキナーゼやE3リガーゼ等で形成される複合体内での、これら分子の相互作用や複合体形成の具体的な仕組みを分子レベルで解明した。また、これらの分子間での相互作用や複合体形成には、E3リガーゼと基質のSUMO化等の翻訳後修飾や、多機能分子p62とユビキチンとの結合が重要であることを見出し、その相互作用の仕組みや低分子プローブといったケモテクノロジーを用いた制御方法について明らかにすることができた。
2: おおむね順調に進展している
細胞生死シグナルのバランスは、キナーゼやE3リガーゼ等で形成される複合体内において、これら分子の相互作用で制御されることから、その相互作用や複合体形成の仕組みを解明することで、ユビキチンやE3リガーゼを標的とした生死シグナルの人為的な調節が可能となるが、その目標のために具体的に以下の点について今回明らかにできた。1) 細胞死や炎症を誘導する、ある特定のキナーゼに対して、特異的なE3リガーゼが複数存在し、それぞれが相互作用してユビキチン化分解されることを見出した。2) その相互作用にはSUMO化のような翻訳後修飾の認識が重要であることを、翻訳後修飾の部位を同定して、その変異体などの解析から明らかにした。3) 多機能分子p62が酸化ストレス等の刺激で形成された凝集複合体ALIS内のユビキチンに結合し、ALIS形成と核移行を促進して、新たな細胞死パータナトスを誘導すること、またp62のシステイン残基を介した2量体形成がユビキチン認識や細胞死誘導に必要であることについて、p62欠損細胞や、p62の修飾部位の変異体の再構築細胞を用いて検証できた。4) このようなp62とユビキチンとの相互作用が、特異的な低分子プローブで抑制されることを見出した。
これまでの成果を踏まえた上で、引き続き、細胞生死などの重要な生理現象のバランスを制御する、キナーゼやE3リガーゼ、ユビキチン等で形成される複合体内での、これら分子の相互作用や複合体形成の仕組みを解明し、それらの相互作用を標的としたケミカルプローブによる人為的な調節によって、過剰な細胞死・増殖といったバランス破綻を抑制し、癌や免疫疾患等に対する、新たな疾患治療戦略の開発を目指す。具体的には以下の点について解析を進める。1) 細胞死や免疫応答等の制御に重要なキナーゼとその特異的な複数のE3リガーゼとの相互作用を介した、それぞれのユビキチン化分解の分子メカニズムを理解し、その分子メカニズムを調節できるケミカルプローブや阻害剤を見つけ、そのようなケミカルプローブによって細胞死や炎症等の生理現象が制御できるか検証する。2) 新たな細胞死パータナトスの誘導に必要な凝集複合体ALISの形成には、多機能分子p62とユビキチンの結合が重要であることが明らかとなってきたが、このp62とユビキチンの結合を調節できるケミカルプローブの同定と、さらにそのケミカルプローブによる調節の仕組みを明らかにし、ケミカルプローブによる人為的な調節を介して細胞死を制御する方法について詳しく検討を行う。3) このようなケミカルプローブの特性をキャラクタライズして、実際の癌や免疫疾患等の疾患の治療戦略開発につなげたい。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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http://www.pharm.tohoku.ac.jp/~eisei/eisei.HP/