研究領域 | ケモテクノロジーが拓くユビキチンニューフロンティア |
研究課題/領域番号 |
19H05283
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高岡 洋輔 東北大学, 理学研究科, 講師 (80599762)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ユビキチンリガーゼ / ペプチド / ケミカルバイオロジー / 植物ホルモン |
研究実績の概要 |
植物ホルモンと呼ばれる天然物は、受容体タンパク質であるユビキチンリガーゼと転写制御因子の複合体を糊付けする分子であり、植物の生長や防御などの様々な生理応答を制御する。この過程で植物ホルモンは様々な転写制御因子をユビキチン化し、分解に導くことで転写が活性化されるが、その機構の詳細は未解明の部分が多く残されている。本研究では、この未開拓の領域である植物ホルモンを介したユビキチンバイオロジーについて、分子レベルで解析する新たな化学的新手法を開発し、そのメカニズムの解明を目指す。特に植物の免疫に関わる重要な植物ホルモン・ジャスモン酸は、その受容体がユビキチンリガーゼCOI1と転写制御因子JAZであるが、JAZのユビキチン化を解析した例は1、2例であり、詳細なユビキチンコードについては全くと言っていいほど知見がない。本研究でこれを明らかにできれば、植物ホルモンに関するユビキチンコードの画期的な新知見となることが期待される。 また同時に、転写制御因子と転写因子との相互作用をケミカルペプチドを用いてコントロールし、様々な生理応答の制御を目指す。本領域ではペプチドのステープル化を用いた生理現象の制御も一つの目標であるが、これを植物で達成した例は皆無であり、本研究によってこれを達成することを目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、基質の二次構造によらないステープルペプチドの新設計戦略により、これまでほとんど明らかにされてこなかった植物ホルモンを介したユビキチンバイオロジーについて、分子レベルで解析する新たなケモテクノロジーを開発することを目的としている。植物ホルモンの多くは、ユビキチンリガーゼ類と転写制御因子などを糊付けする分子として機能し、環境ストレスによってホルモンが産生されると、転写制御因子がユビキチン化され分解を受けることで、転写が開始し、その後の様々な生理応答が引き起こされるとされている。ただし、これらのユビキチン化の過程を詳細に調べた例はごくわずかであり、未解明の部分が多く残されている。本研究では、植物ホルモン、ジャスモン酸を標的とし、これとユビキチンリガーゼCOI1/転写制御因子JAZの三者複合体を選択的に形成しうるペプチドリガンドを開発し、植物ホルモン受容体のユビキチンコードの精密な解読を目指す。これまでに、最初のハードルとして掲げた精密なX線結晶構造解析から分子をデザインし、試験官レベルでの合成と評価を達成した。この分子はCOI1とは結合するものの元々のターゲットである転写因子とは結合しないという選択性を示し、ユビキチン化解析に有効であることが示唆される結果を得た。また同時に、JAZが制御する転写因子に選択的なペプチドリガンドも設計、開発する目的で、これまでに試験官レベルで転写因子選択的なステープルペプチドを開発することに成功した。これらの成果は現在論文にまとめている段階である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、JAZリプレッサーの質量分析によるユビキチン化解析や、植物ホルモンジャスモン酸の関与するシグナル伝達を解析する研究を展開する。そのために種々の精製タグ導入タンパク質(JAZ、COI1、転写因子など)発現系の構築、および培養細胞系の構築を進め、ジャスモン酸を投与した際のユビキチンかパターンなどの解析を可能な限り分子レベルで評価することを目指す。また、さらなる分子構造の最適化を試験官レベルで実施するとともに、これらを用いて植物抽出物などを使った評価を計画している。 転写因子選択的リガンドについてはすでに植物体における活性を評価し始めており、論文化に向けて準備を行っている。また、転写因子間選択的なペプチドリガンドの開発を目指して、網羅的な相互作用パネルの作成を実施していく予定である。これによって、現在までに明らかになっているJAZ-転写因子間の相互作用を可能な限り定量的に評価する新しいアッセイ系を構築し、論文にまとめていく予定である。
|