公募研究
DNAメチル化は様々な生命現象に重要な役割を果たすエピジェネティクス修飾であり、その脱制御は様々な疾患の原因となる。ゲノム上のDNAメチル化パターンは、染色体複製時に維持DNAメチル化と呼ばれる反応を介して、正確に娘染色体に継承される。維持DNAメチル化の中核となるDNAメチル化酵素1 (DNMT1)は片鎖メチル化DNAを両鎖メチル化DNAに変換する活性をもち、そのDNAメチル化部位への局在には、片鎖メチル化DNA特異的結合タンパク質であるE3ユビキチンリガーゼUHRF1により生成されるユビキチンシグナルが不可欠である。本研究は維持DNAメチル化を制御するユビキチンシグナルをケモテクノロジーを用いて制御することで、その作動機構と役割を明らかにすることを目ざす。 2019年の研究概要は以下のとおりである。1. UHRF1によるユビキチンシグナルに拮抗する脱ユビキチン化酵素について解析を行った。UHRF1によってユビキチン化されるPAF15に対する結合因子の探索を行い、USP7を同定した。さらにUSP7とPAF15の双方における複合体形成に必要な配列のマッピングを行い、PAF15の持つ3つのUSP7結合配列を決定した。これらの配列に変異を導入すると、S期を通じてPAF15のユビキチン化状態が高く保たれ、クロマチン結合能が大きく上昇することが分かった。USP7を免疫除去した場合にも同様の効果が見られ、USP7がPAF15を脱ユビキチン化することで、そのクロマチン結合を制御していることが示された。2. DNMT1とユビキチン化ヒストンH3との結合を阻害する低分子化合物のスクリーニングに取り組んだ。インシリコ解析により得られた候補化合物について、SPRを用いたアッセイにより、DNMT1-H3Ub2結合に対する阻害効果を測定したが、有意な効果をしめす化合物の取得には至らなかった。
3: やや遅れている
ユビキチンシグナルの理解については、順調に進んでいるが、一方でDNMT1のユビキチン結合を阻害する化合物の取得については、当初予定していた実験系により、有意な活性を示す化合物を取得するに至らなかった。また、アッセイ系の再構築、あるいは別の形でのアプローチが必要となると考えられる。一方で、既知の低分子化合物を使った新たな実験系が立ち上がっており、DNAメチル化機構の新たな制御が示されつつある。これらを総合的に判断して、進捗状況を「やや遅れている」とした。
USP7によるPAF15脱ユビキチン化のDNAメチル化における役割について調べるために、PAF15変異体やUSP7除去により、PAF15脱ユビキチン化を阻害した場合のDNA維持メチル化の進行について解析する。また、5-aza-dCTPを用いて、無細胞系においてDNMT1-DNA架橋形成を誘導することが可能であること、またその際にユニークなシグナル経路が活性化されていることを見出しており、その全貌を明らかにすることに取り組む。また、DNMT1阻害剤やUHRF1阻害剤の取得については、領域内の共同研究を活用しながら、継続して行う予定である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Nature communications
巻: 11(1) ページ: -
https://doi.org/10.1038/s41467-020-15006-4
ファルマシア
巻: 56 (1) ページ: 36-40
https://doi.org/10.14894/faruawpsj.56.1_36
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00056.html