脱ユビキチン化酵素の一つubiquitin-specific protease 8(USP8)は、エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれた膜タンパク質をエンドソームで脱ユビキチン化し、これらの細胞膜へのリサイクリングを促進する役割を果たすことが示唆されている。また、USP8の遺伝子変異は難治性疾患クッシング病の原因となることも知られている。しかし、野生型USP8がどのようなしくみでエンドソーム周辺で活性化するか、変異型USP8がどのようなしくみでクッシング病を引き起こすかは、不明である。本研究ではこれらのしくみを分子レベルで解明することを目的としている。 野生型USP8は、14-3-3タンパク質と結合することによって活性が抑制されることがこれまで知られていた。今年度の解析から、USP8の自己阻害ドメインとUSPドメインの分子内結合を14-3-3タンパク質が強めることが明らかとなり、この分子機構を介して、USP8の活性が抑制されることが明らかになった。USP8と14-3-3タンパク質の結合が何らかの機構によってエンドソーム周辺で解除され、USP8の活性が適切に制御されている可能性が考えられた。 一方、クッシング病を引き起こす変異型USP8についても作用機構を調べた。その結果、変異によってUSP8は14-3-3タンパク質と結合できなくなり、過剰な脱ユビキチン化活性を示すようになることが明らかとなった。このことから、USP8の過剰活性化が疾患発症機構の一部であり、USP8を阻害することがクッシング病の治療に有効である可能性が考えられた。さらに、USP8の遺伝子変異の影響をin vivoで検討するために、ゲノム編集技術を用いて、当該変異を有するマウスを作製することに成功した。
|