公募研究
ユビキチンのN末端を介した特殊な連結様式により形成される「直鎖状ユビキチン鎖(M1鎖コード)」は、NF-kBなどの炎症シグナルや細胞死を制御するユニークかつ希少なユビキチンコードとして、近年、大きな注目を集めている。本研究では、独自の阻害剤を含む各種研究ツールを駆使しM1鎖コードを標的としたケモテクノロジー解析を進め、生理機能と動作原理、さらに、その破綻に伴う各種病態形成の分子機序を明らかにする。これまでの研究において、LUBACの酵素活性を抑制する化合物スクリーニング系を構築し、25万個の化合物ライブラリーからユニークな新規LUBAC活性阻害剤 (HOIPIN-1; HOIP inhibitor-1)を同定した(SLAS Discov. 2018)。さらに、HOIPIN-1を基に合成展開を進め、より強い阻害能を備える化合物を見出した (BBRC. 2019)。中でもHOIPIN-8は非常に強い阻害活性を示した。これらについてさらに解析を進め、HOIPINがLUBACの活性中心であるHOIPサブユニットにマイケル反応により結合し、LUBACのユビキチンリガーゼ活性を抑制すること、良好な膜透過性を持つ一方で細胞毒性は低いこと、細胞レベルにおいて炎症性サイトカインや病原体分子パターン(PAMPs)によりLUBACを経由するNF-kBやIFN-b活性化を抑制すること、TNF-aによって誘導される外因性アポトーシスを増強することを見出した。さらに、ABC-DLBCL(活性化B細胞様びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)細胞の増殖を選択的に抑制し、イミキモド添加によるマウス乾癬モデルにおいて、表皮の肥厚を抑制し、病変組織における各種サイトカイン(IL-17、22、23)の誘導を抑制するなど、病態抑制効果を示した(Commun Biol. 2020)。
2: おおむね順調に進展している
LUBACによる直鎖状ユビキチン産生を標的とした阻害剤スクリーニングにより、細胞レベルで利用可能な化合物を所得し、さらに、合成展開により高い阻害効率 を備えた化合物も見出した。さらに、B細胞リンパ腫や乾癬モデルに対する病態抑制効果を見出し、筆頭著者として原著論文を発表するなど(Commun Biol. 2020)、当初の計画通り順調に進展している。また、OTULIN阻害剤に関しても、各種in vitro解析やADME解析を含む共同研究から新たな知見が得られ始めており、今後、大きな研究へと発展する可能性が極めて高い。なお、当初の計画通りに進捗が見られない場合は、専門の先生方への共同研究の要請や、特定の進捗が見込める課題に絞って展開するなど多面的な検討を加える。
現在見出している直鎖状ユビキチン阻害剤に関して、ALSなどを含め他疾患モデルでの解析を進め、病態抑制効果などを検証する。また、OTULIN阻害剤に関しても引き続き解析を進め、大きな研究へと発展させインパクトの高い研究成果へと繋げていく。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 524 ページ: 1~7
10.1016/j.bbrc.2019.12.049
Communications Biology
巻: - ページ: -
生化学
巻: 92 ページ: 28~34
10.14952/SEIKAGAKU.2020.920028