研究領域 | ケモテクノロジーが拓くユビキチンニューフロンティア |
研究課題/領域番号 |
19H05302
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
渡邉 信元 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, ユニットリーダー (90221689)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ユビキチン化 / 小分子探索 / タンパク質分解 / タンパク質間相互作用 / タンパク質リン酸化 / PROTAC / Fボックスタンパク質 / 蛍光タンパク質 |
研究実績の概要 |
これまでに代表者が確立してきた、他のタンパク質にリン酸化に依存して結合するタンパク質のリン酸化ペプチドへの結合をハイスループットに測定する探索系の技術を応用して、β-TrCPのリン酸化基質への結合に拮抗する小分子探索系を構築した。具体的には、蛍光タンパク質(monomeric Azami Green; mAG)と融合したβ-TrCP1あるいはβ-TrCP2をバキュロウイルスに導入して昆虫細胞に感染することでこれらの融合タンパク質を大量発現する系を構築した。さらにβ-TrCPの標的リン酸化ペプチドを96穴プレートに共有結合し、上述の感染細胞の細胞抽出液を入れたのちに洗浄し、結合を蛍光プレートリーダーで測定することで、融合タンパク質の結合をハイスループットに測定できることを示した。この系でβ-TrCPの標的リン酸化ペプチドそのものが結合阻害物質となるはずで、実際、μMオーダーの濃度で結合を阻害できることも確認できた。 すなわち、これらの結果からβ-TrCPの標的への結合阻害物質を直接ハイスループットに探索できる系を計画通り構築できたと結論した。β-TrCPの標的への結合を直接検出する阻害物質探索系はこれが初めての例であり、阻害物質の探索に極めて有効であると考えている。 次にこの系の有効性の検証をさらに行った。β-TrCPの阻害物質は文献上知られているものはほとんど無いが、その一つであるGS143について阻害能の確認を行い、それほど強くはないが(IC50=数十μM)、濃度依存の阻害が確認された。このシステムをもちいて、理研天然物ライブラリー(RIKEN NPDepo Library)の化合物について阻害物質の探索を開始している。また、GS143とGleevecの融合化合物がBcr-Ablタンパク質のProtacとして機能できる可能性についての検討を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画ではほ乳類培養細胞を用いて蛍光タンパク質(mAG)と融合したβ-TrCP1あるいはβ-TrCP2を大量発現する予定であったが、実際には期待したほどの量のタンパク質を発現させることが出来なかった。そこで融合タンパク質を、バキュロウイルスに導入して昆虫細胞に感染して、これらの融合タンパク質を大量発現する系を構築した。系の構築はスムーズに進み、期待された量の蛍光融合タンパク質を含む細胞抽出液を得ることができた。さらにβ-TrCPの標的リン酸化ペプチドを96穴プレートに共有結合し、上述の感染細胞の細胞抽出液を入れたのちに洗浄し、結合を蛍光プレートリーダーで測定することで、融合タンパク質の結合をハイスループットに測定できることを示した。この系でβ-TrCPの標的リン酸化ペプチドそのものが結合阻害物質となるはずで、実際、μMオーダーの濃度で結合を阻害できることも確認できた。すなわち、これらの結果からβ-TrCPの標的への結合阻害物質を直接ハイスループットに探索できる系を計画通り構築できたと結論した。 さらに、この系の有効性の検証をさらに行った。β-TrCPの阻害物質は文献上知られているものはほとんど無いが、その一つであるGS143について阻害能の確認を行い、それほど強くはないが(IC50=数十μM)、濃度依存の阻害が確認された。システム構築が首尾良く進んだのでこのシステムをもちいて、理研天然物ライブラリー(RIKEN NPDepo Library)の化合物について阻害物質探索を開始している。 当初の計画では,次年度に行う予定であったが、β-TrCP リガンド小分子としてGS143が実際にβ-TrCPと結合できることをわれわれの系でも確認できたので、GS143とGleevecの融合化合物がBcr-Ablタンパク質のProtacとして機能できる可能性についての検討を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
1. 昨年度構築した探索系の検証: β-TrCPのアミノ酸点変異体やドメイン欠失体では結合が消失することを確認することにより、β-TrCP依存特異的結合が測定可能であることを検証する。 2. 探索系による小分子化合物の探索: 昨年度に引き続き β-TrCP依存特異的結合を阻害する小分子化合物を理研NPDepo化合物ライブラリーから探索する。これまでに行っているリン酸化依存結合阻害物質探索のヒット化合物情報も利用して、特異的なβ-TrCP結合阻害能を確認する。 3.ヒット化合物の結合阻害能の検証: 得られた化合物について、他のアッセイ方法(GST融合タンパク質プルダウンアッセイ法など)によっても β-TrCPタンパク質の基質への結合を拮抗できるかの検討を行う。また得られた化合物がβ-TrCP1-SCFユビキチン化酵素活性を阻害出来ることを確認する。さらに、化合物をセファロースビーズに共有結合させた化合物ビーズを作成し、細胞抽出液からの化合物結合タンパク質のプルダウン法を行い、結合がβ-TrCPに特異的であることを確認する。 4.ヒット化合物の構造活性相関解析: 得られたβ-TrCPリガンドの類縁体を用い結合阻害活性の構造活性相関を解析することで、キメラ化合物の作成に利用できる化合物の官能基を明らかにする。 5.ヒット化合物とBcr-Abl阻害剤Gleevecの結合キメラ化合物の作成: 構造活性相関解析の情報をもとにヒット化合物とBcr-Abl阻害剤Gleevec(Imatinib)をリンカーを介して共有結合させる。 6.キメラ化合物の効果の解析: 得られたキメラ化合物を、Bcr-Abl活性に依存して増殖する細胞(CML細胞K562など)に投与しGleevecに対する感受性と比較し感受性が上昇していること、細胞内のBcr-Ablが実際に分解されることなどを検証する。
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