研究領域 | 時間生成学―時を生み出すこころの仕組み |
研究課題/領域番号 |
19H05303
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
田中 雅史 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (20835128)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | キンカチョウ / 大脳皮質運動野 / リズム / 周期的神経活動 / 音声コミュニケーション / 歌鳥 / 鳴禽 / ソングバード |
研究実績の概要 |
本研究は、歌をさえずるスズメ亜目の鳥(songbird, 歌鳥)の一種キンカチョウが、ヒトと類似の言語的発話を通してコミュニケーションを行う社会的な動物であることに着目し、その発話の時間制御をささえる神経メカニズムの解明を目指している。本研究では、キンカチョウの発声に含まれるリズムを解析するため、短時間フーリエ解析を利用した新しいアルゴリズムの開発を行った。この新しい解析法を用いて、成熟したキンカチョウの歌を解析した結果、キンカチョウの歌には10 Hz程度のリズムが認められ、このリズムは発達とともに次第に安定化していくことも明らかになった。この10 Hzのリズムは、大脳皮質運動野(HVC)で生じる神経活動のリズムとも一致しており、さらに、幼少期の経験を操作することによって、このリズムの安定化を操作できることも明らかになってきた。また、本研究で開発したリズム解析法を、ヒトの発声に適用した結果、ヒトの歌には比較的安定したリズムが認められたものの、ヒトの言語的発話ではリズムは比較的不安定であった。さらに、発声リズム生成のメカニズムを探るため、種々のシミュレーションを行った結果、キンカチョウの歌とヒトの歌との間にはダイナミックなリズム調節のメカニズムが認められる一方で、ヒトの言語的発話では明確なリズム調節機構が認められず、キンカチョウの歌とヒトの歌とは、類似のメカニズムによってリズム生成が行われている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究により、キンカチョウの発声リズムの解析法として、従来のシラブル長・ギャップ長・モチーフ長などによるリズムの解析のみならず、短時間フーリエ解析を用いた方法が、刻一刻と変化する動的なリズムの理解に有効であることが示された。本研究では、この解析をシミュレーションと組み合わせることによって、キンカチョウの発声リズムやヒトの言語的発話・歌のリズムを生み出すメカニズム推定に挑み、そのリズム生成特性の類似性から、これまで知られていなかったキンカチョウの歌とヒトの歌との共通点を初めて明らかにすることができた。その生成メカニズムを支える神経活動として、大脳皮質運動野が有力な候補だと考えられるため、今後の研究によって発話リズムを支える神経機構の解明を目指したい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により、キンカチョウの発声リズムとヒトの言語的発話・歌のリズムの共通点と相違点が明らかになりつつある。今後は、本研究で開発されたリズム解析法のさらなる最適化とより広汎な動物の発声への適用を目指して、キンカチョウとヒトの発声リズムの特徴と固有性とを明らかにするとともに、その生成メカニズムを支える神経機構として有力な候補である大脳皮質運動野で生じる周期的な神経活動が、キンカチョウの発声において見られる安定した10Hzのリズムの成熟・阻害によってどのように影響を受けるのかを調べ、発話リズム生成の神経メカニズムの解明を目指す予定である。
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