公募研究
生物は自律的に時を刻む計時システムを内在し、外界環境へ適応する。地球の自転周期にあわせた概日性の生理リズムを生み出す概日時計(サーカディアンクロック)は、下等生物から高等生物まで広く観察される。哺乳類においては、概日時計の中枢は視床下部のごく微小な神経核である視交叉上核(SCN)に存在している。SCNは不均一な細胞集団であり、その中には「時を刻む振動細胞(clock cell)」、「時刻情報の発信細胞(output cell)」と「外界環境への同調細胞(input cell)」がうまく共存して時計システムを形成していると考えられるが、どのような細胞が発信細胞を構成し、どのような生理リズムを形成しているのかは謎に包まれている。本研究計画で我々は、特に睡眠中枢へ至る神経回路に着目してその特性を理解し、睡眠リズム形成における機能を明らかにすることを目的とした。アデノ随伴ウイルスを用いてSCNの神経細胞の投射先を調べたところ睡眠制御領域である視索前野が多く含まれていた。さらに逆行性ウイルスベクターを用いてSCNから睡眠中枢である腹外側視索前野に投射する神経群を同定した。これらの神経細胞の多くは神経ペプチドである血管作動性腸管ペプチド(VIP)を産生するニューロンであり、SCNの中でも特異な神経集団を形成していると考えられた。さらにその神経細胞においてテタヌス毒素を用いて神経伝達を遮断した際に、マウスの自発行動リズムおよび睡眠リズムが大きく減弱したが、興味深いことにこのマウスにおいて輪回し行動を調べたところ、恒暗条件においても行動リズムが観察され、コントロールのマウスに比べて長周期のリズムを示した。つまり、このマウスにおいては睡眠リズムは消失したが、輪回し行動のようなアクティブな行動にはリズムが残っており、視交叉上核から独立した経路でそれぞれのリズムの形成に関与していると考えられた。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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journal of neuroscience
巻: 41 ページ: 1582-1596.
10.1523/JNEUROSCI.0688-20.2020.