研究実績の概要 |
脳が外界を知覚する、まさにその機能が、脳の時間の最小単位を規定する。例えば聴覚では、数100ミリ秒の時間窓(時間幅)が単位となり、この時間窓内の刺激は、ひとつの聴覚イベントに統合されて聞こえる。この時間窓の長さには種差があっても、不思議ではない。そして、もし感覚野の知覚処理に時間窓の種差があるならば、感覚野から情報を受ける連合野や他の脳部位にも、それに応じた時間窓の種差があるはずである。つまり、外界情報の知覚を規定する境界条件としての時間窓は、いわば、脳の時間の単位や秒針のようなものと言える。そのため、知覚の時間窓が進化でどのように変化したか(あるいはしなかったか)は、脳の時間の種差を考える上で、極めて根本的な問題である。 しかし、知覚の時間窓に種差があるかもしれないという可能性そのものが、これまでほとんど検討されたことがない。そこで本研究は、ヒト、マカクザル、マーモセット、そしてイルカを対象とした比較研究により、時間処理がとくに重要な聴覚に注目し、脳の知覚の時間窓の進化を明らかにすることを目的とした。脳活動の指標には、頭皮上から無侵襲で記録できる、聴覚誘発電位(AEP)を利用する。 本年度の研究では、持続時間を様々に変えた時のAEP振幅の変化を調べることで、ヒトとアカゲザルで聴覚処理の時間特性に種差があることを明らかにした(Itoh et al., 2019)。また、マーモセットの無侵襲AEP波形の形状や潜時を世界で初めて記載し(Itoh et al., submitted)、ヒト・アカゲザル・マーモセットの3種での時間窓の種差の解析を進めている。さらに、イルカで脳波記録を行うためのプロトコルやデバイス(電極シート)の作成を行った。
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