研究実績の概要 |
脳が外界を知覚する、まさにその機能が、脳の時間の最小単位を規定する。例えば聴覚では、数100ミリ秒の時間窓(時間幅)が単位となり、この時間窓内の刺激は、ひとつの聴覚イベントに統合されて聞こえる。この時間窓の長さには種差があっても、不思議ではない。そして、もし感覚野の知覚処理に時間窓の種差があるならば、感覚野から情報を受ける連合野や他の脳部位にも、それに応じた時間窓の種差があるはずである。つまり、外界情報の知覚を規定する境界条件としての時間窓は、いわば、脳の時間の単位や秒針のようなものと言える。そのため、知覚の時間窓が進化でどのように変化したか(あるいはしなかったか)は、脳の時間の種差を考える上で、極めて根本的な問題である。 しかし、知覚の時間窓に種差があるかもしれないという可能性そのものが、これまでほとんど検討されたことがない。そこで本研究は、ヒト、マカクザル、マーモセット、そしてイルカを対象とした比較研究により、時間処理がとくに重要な聴覚に注目し、脳の知覚の時間窓の進化を明らかにすることを目的とした。脳活動の指標には、頭皮上から無侵襲で記録できる、聴覚誘発電位(AEP)を利用する。 本年度の研究では、マーモセットの無侵襲AEP波形の形状や潜時を世界で初めて記載した論文を発表し(Itoh et al., 2021)、共同研究により取得したチンパンジーの脳波データと合わせ、ヒト・チンパンジー・アカゲザル・マーモセットの霊長類4種における聴覚処理の時間的側面について種差を検討した。さらにイルカ脳波記録のための吸盤電極の改良を行い、音を骨伝導で提示するためのjawphoneの試作をした。
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