いつも乗る通勤電車が遅れていたとき、どのくらい電車を待つべきで、いつ諦めて別の手段に切り替えるべきだろうか。このような状況では、過去にどのくらい待たされたかという経験に基いて、適切に行動のタイミングを決定する必要がある。本研究では、研究代表者が独自に開発した遅延報酬課題を用い、過去に遅延報酬をどれくらい待たされたかの経験に基づいた適応的行動タイミング決定の神経基盤を明らかにすることが目的である。 適応的行動タイミングの神経メカニズムを光遺伝学、薬理遺伝学、電気生理学的手法など多角的なアプローチを用いて解明できるよう、マウスを用いた遅延報酬行動課題を確立した。特に複数の多点電極を用いたり2光子励起イメージングを用いたりして大規模神経活動記録が行えるよう、頭部固定下の行動課題を採用した。この行動課題では、マウスがすぐに得られる少量の報酬を取りにいかず、トレッドミル上でじっとしているとランダムな遅延の後に大量の報酬がもらえる。この課題でマウスが大量の報酬を数秒から数十秒間待ち続けられることを明らかにした。さらに、マウスが、過去の試行における二つの因子「遅延報酬が来るまでまてたか」と「遅延報酬をどれくらいの時間待ったか」により、適応的に待ち時間を変化させることが示唆された。遅延報酬が来るまで待てた(遅延報酬をもらえた)試行の次の試行ではよりマウスが待ちやすくなり、また、長く待たされた試行の次の試行ではより待ちにくくなることが示唆された。 この行動課題はマウスが過去の経験に従い適応的に行動タイミングを決定する神経基盤を調べるのに適した行動課題であり、今後神経活動記録などを用いて神経基盤の詳細を調べて行く土台を築いた。
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