本年度は、学習による時間長の脳内表現の変化を調べるため、知覚学習のパラダイムを用いた心理物理実験を行った。近年の我々の研究では、持続時間と間隔時間が脳内で別々のニューロン群によって表現されている可能性が示されたため、これらの異なる刺激フォーマットの間では脳における「学習の効率」も異なる可能性があると考えた。そのためこの実験では被験者を2群にわけ、一方の群では200ミリ秒の持続時間、もう一方の群では200ミリ秒の間隔時間についてそれぞれ4日間の弁別訓練を行い、訓練の前後で時間長の弁別閾値に変化が起こるかを調べた。その結果、持続時間では200ミリ秒の弁別閾値に変化がほとんど生じないのに対して、間隔時間の学習においては有意な閾値の低下が見られた。この結果は時間長の各フォーマットに対応する脳内表現に学習効率の違いがあることを示唆している。本研究成果は論文として国際学術誌に投稿済みであり、現在査読中である。 また、脳活動と時間感覚の因果関係を明らかにすることを目的とし、4連発磁気刺激(QPS)を用いた実験を行った。QPSは近年になって開発された非侵襲的な脳刺激法であり、効果の再現性に関する知見が不足していたことから、まずは効果の基礎的な検証をおこなった。この検証実験では、磁気刺激コイルを第一次運動野の直上に置き、刺激前後の運動誘発電位(MEP)の変化を検証した。実験の結果、先行研究で示された促進・抑制の効果が想定通りに再現されることが確認されたため、この成果を論文として発表した。さらにこの実験結果を踏まえ、QPSを用いて時間知覚の推定精度への影響について検討を行った。その結果、下頭頂小葉および補足運動野を刺激した際に時間長の推定精度に変化が見られたことから、これらの脳領域がどちらも時間感覚に重要である可能性が示唆された。
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