公募研究
「時間とは何か」という疑問は、古来より、心理学者だけではなく、芸術家、小説家、哲学者、科学者、そして一般高等市民の心を捉えてやむことのなかった、根元的で深遠な、人類史上の最重要課題の一つである。その「時間」を認識する心や意識の働きとされるような認知機能が、物質である脳の電気化学的な活動の結果として、どのように生じているのかという疑問は、現代においても依然として謎に包まれたままである。こうした「時間の認識」は、視覚や聴覚など他の知覚系とは異なり、時間だけを処理する受容体や、時間の情報のみを担っている脳の部位が存在しない。ヒトを含めた動物は、自らを取り巻く外部の世界から受け取る感覚情報と、自己の感覚と運動の情報を統合することによって、時間の認識を生み出さなくてはならない。本研究においては、新しい行動実験系を主軸に据えて、行動の出力として直接的な運動制御を担っている脳幹から、認知機能を担っていると考えられる大脳皮質へと投射元を辿っていくことによって、「運動」と、「時間」の認知情報を処理している神経生物学的基盤を分離し、時間情報が生成される過程について明らかにすることを目的としている。今年度は慶應義塾大学で研究設備の整備を行い、時間認識課題遂行中のオプトジェネティクスとケモジェネティクスによる神経活動の操作が可能になり、薬理学的な操作や行動計測技術のアップデートを行った。
2: おおむね順調に進展している
動物の時間認識を調べる行動課題を確立し、計測と解析技術のアップデートを行い、遺伝子改変マウスを導入した。新しい所属機関に移って初年度の報告になるため、現時点での業績は少ないが、設備のセットアップ状況は良好で、遺伝子改変マウスも増えている状況であり、今後の成果が期待できると考えている。
時間認識課題遂行中の最初期遺伝子の探索によって得られた知見をもとに、オプトジェネティクスやケモジェネティクスあるいは細胞種選択的な損傷などによって行動と神経活動の因果関係について明らかにしていきたい。ファイバーフォトメトリー技術を立ち上げている最中であり、そうした神経活動の計測系が稼働するようになると研究の更なる加速が期待できると考えている。
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Cell Reports
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