公募研究
本研究は厳密に統制された実験によって、九州方言、韓国語、琉球諸語を含む諸言語での時間・空間の認知プロセスを明らかにすることを目的とし、従来の言語学的分析に加えて、発話に随伴するジェスチャーとさまざまな装置を用いた実験的手法によって、時空間の認知プロセスの解明を試み、人間言語に普遍的な本研究は時間認知のメカニズムを解明することを目指している。今期は主にA. 言語学的分析のための準備と、B. パイロット実験の準備および試験的実施を行った。Aについては、ジェスチャーによる空間・時間の相関を見る準備として、指示詞の空間的使用と時間的使用、時間の前後関係の空間的使用と時間的使用の相関について、文献的な調査を行い、その内容を申請者、研究協力者の間で情報共有した。また、研究代表者の有田は、時間表現と論理表現の共通性と相違性について、時間節と論理節における時制解釈の違いに着目して分析をすすめその成果の一部を公刊した。研究協力者の田窪は時空間マッピングと言語表現の関係についての研究の成果を公刊した。Bについては、海外研究協力者でこの分野で世界的に著名な研究者であるRafael Nunez氏を招き、言語使用と随伴ジェスチャーによる時空間の相関の言語的実験の方法についての教示を受け、宮古語の話者を対象にパイロット的実験として、空間と時間の両方を表す表現を使用する際のジェスチャーを記録し、一部分析し、実験方法の見直しなどを検討した。それに並行して、本土方言話者にも同様の実験を行った。宮古島での本格調査がコロナの影響で実施できず、また、他の地方および海外での調査も中止せざるをえなくなった。その間、分析に必要なジェスチャーのコーディングの基準の策定や既存の動画データを用いた分析を進めた。また、統語構造とポーズの関係についてのデータの収集も始めた。これらの成果の一部を領域会議で発表した。
2: おおむね順調に進展している
結果的に再繰越することになったものの、1年目で、当初計画していた言語学的分析のための準備と、パイロット実験のための準備と試験的実施については、8割程度できていた。コロナの影響で、国内外での移動ができなくなり、宮古島での調査の予定が立たなかったのは問題だが、その間、移動を伴わずにできることを前倒しして行ったことで、結果的には順調に進展しているといえる。
策定したジェスチャーコーディング基準にもとづき、本土方言の文字付き動画にコーディングし、それをもとに、時間・空間の認知プロセスのメカニズムを探る。コーディング自体は個人作業だが、その分析については、定期的にデータセッションを行いながら進める。韓国語の動画データに文字起こしおよび翻訳をつけ、これについても上記基準に基づきジェスチャーのコーディングを行い、同じくデータセッションを行いながら分析を進め、日本語と韓国語の比較検討を行う。その一方で、ポーズと統語構造の関係についての分析も進める。以上、コロナの状況に左右されない方法で、研究を進める。その研究成果を学会等のワークショップなどで広く公開する。コロナ感染状況が改善したあかつきには、ふたたびRafael Nunez氏を日本に招き、公開シンポジウムを開催する予定がある。
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日本語文法
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