研究領域 | ソフトロボット学の創成:機電・物質・生体情報の有機的融合 |
研究課題/領域番号 |
19H05321
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
荒井 俊人 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (40750980)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 単層2分子膜 / 自己組織化 / 有機半導体 / プリンテッドエレクトロニクス / 分子認識センサ |
研究実績の概要 |
細胞膜をはじめとするソフトな機能性分子薄膜は、分子が自己組織的に並ぶ性質を利用することで低コスト・省資源での電子デバイス製造を可能にする新しい舞台として期待されている。しかし、従来の方法・材料で作製される分子膜は分子間の相互作用が弱く主として水中でのみ安定なものが多かった。これに対して、最近ある種の有機半導体を用いることで、大気安定かつ厚み均質な分子膜を簡便な溶液プロセスで得ることが可能になった。そこで、本研究では、これら分子膜が生体膜に類似した構造をとることに着目し、生体に類似した機能の探索、とくに周囲の分子を認識するセンサ機能を開拓することを目的とした。 本年度はこれら分子膜を半導体層に用いた薄膜トランジスタ(TFT)を作製し、デバイスの設置環境における極性分子ガス濃度を調べる分子ガスセンサ機能の開拓に従事した。作製したTFTにおける有機半導体層の厚み依存性を調べることで、単層の2分子膜を有機半導体層に用いた場合に最も応答性が良好であることを明らかにし、学会発表を行った。これに付随して、得られたTFTの線形・飽和各領域における移動度が上記単層2分子膜において最大化されることを明らかにし、同様に学会発表を行った。次に、得られたTFT型センサの性能は2つ以上の異なる結晶ドメインを内包したTFTでは性能が変化すると考え、隣接した微小な薄膜単結晶の分子配列を簡便に調べる方法を検討した。その結果、偏光吸収スペクトルを、量子化学計算をもとに解釈することで微小な結晶ドメインの分子配列を調べることができることを明らかにし、誌上発表した。以上の成果とこれまでの実績を基に研究代表者は応用物理学会 有機分子・バイオエレクトロニクス分科会奨励賞を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の取り組みにおいて、研究計画通りに有機半導体の薄膜単結晶の厚みを分子レベルで制御し、そのセンサ機能を系統的に調べた。その結果、有機半導体の分子積層を制御した単層2分子膜構造において、最も設置環境の影響を受けやすく、応答性が高いことを明らかにした。これに付随して分子積層数の比較から薄膜トランジスタの線形・飽和各領域における移動度も単層2分子膜型の有機半導体層を用いた場合に最大化されることを明らかにした。次に、異なる分子配列を含んだ薄膜トランジスタにおけるセンサ機能を調べるために、異なる結晶グレインが隣接した多結晶において、各グレイン内の分子配列を簡便に調べる方法を検討した。その結果、偏光吸収スペクトルを量子化学計算をもとに解釈することで微小な単一結晶ドメインの分子配列を評価できることを明らかにした。これは当初の計画にはない付加的な成果である。さらに、本年度はフレキシブル基材上へのメッシュ状配線の印刷法を新たに検討することで、領域内他グループとの共同研究も開始した。以上のように、有機半導体単層2分子膜における分子認識センサ機能を明らかにしたことに加え、分子配向の評価手法の開拓や配線印刷法の改善等、当初の予想を越えて研究が進展を遂げつつある。
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今後の研究の推進方策 |
上記のとおり、本研究課題はこれまで極めて順調に遂行されている。本年度の研究により、有機半導体の分子積層を抑えた極薄分子膜がセンサ機能の増強に有用であることが明らかとなった。今年度はまずは研究計画の通り、任意の基材の上に分子膜を形成する技術の確立を目指すと共に、有機半導体の材料選定や基材の表面状態制御を検討することで、センサ機能の増強を図る。また、フレキシブルな基材への電極パターニング技術と組み合わせることで、ソフトロボットに適応可能な密着性の高い電子部材の試作を行う。
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