ソフトロボットの素材の一つであるマッキベン人工筋肉が,医療機器の中などの高磁場でも問題なく稼働する性質を利用して,ヒトが着たままMRIの高磁場内で使用できる,手腕用外骨格パワーサポートロボットを人工筋肉を用いて作成した.このようなパワーサポートロボットの開発そのものは多くの企業や研究室で相次いでいるものの,それらが着用している人間の身心に及ぼす影響についての研究例は極端に少ない.本研究では,このような問題を解決するために,外骨格パワーサポートロボットを着用したままの被験者を実際にMRIに入れて,その脳内機序を解明することを目標とした.具体的には,ロボットが意思や意図の通りに動作しており(操作主体感,Sense of Agency),装着者自身の身体の一部と化している状態と(自己身体所有感,Sense of Ownership),そうでない時の脳機能の違いを可視化することを目指した.ロボットの製作や,ヒトとMRI信号双方への影響の少なさに関しては,実際のfMRI機器を用いて完了したものの,コロナ禍の影響で,実際に実験できる被験者の数や時間に制限があり,研究成果の外部発表に遅れた生じた.なお,同じロボットをバーチャルリアリティ用に改造し,バーチャルリアリティと組わせて様々な触力覚が提示できるシステムを作成した.具体的には,惑星などに接近した時に引っ張られるような重力覚や,はじき返されるような反発覚を,マッキベン人工筋肉を人の手腕に装着し,視覚提示と同期させることで生成した.これにより,マルチモーダルで簡単なゲームを作成し,幾つかの研究会等でデモンストレーションした.将来的には,このバーチャルリアリティのシステムも,MRI機器の中で稼働させることにより,様々な種類の心理物理学的実験に使用でき,ヒトの脳機能の検討に広く使用されることが期待される.
|