研究領域 | ソフトロボット学の創成:機電・物質・生体情報の有機的融合 |
研究課題/領域番号 |
19H05328
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
新竹 純 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 助教 (10821746)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ソフトロボティクス / アクチュエータ / 生分解性材料 / 生分解性 / グリーンロボティクス |
研究実績の概要 |
生分解性材料の分解過程における機械特性の変化を解析できる、一連の実験プロセスを確立した。材料の分解は温度や湿度、微生物の活性度といった環境因子によって左右されるため、それらを管理下におくことで、分解の度合いと機械特性の関係を明瞭にすることができる。確立した実験プロセスは、生分解性材料の作製、分解、および引張試験を通した解析、という3つの工程からなり、それぞれにおいての適切な温度、湿度、および時間を明らかにした。これらの環境因子は各工程において、恒温撹拌機、恒温槽、真空恒温槽、恒湿槽、およびインキュベーターによって制御される。また、生分解性材料としてゼラチンとグリセロールの混合物に着目し、乾燥と吸湿の観点から実験プロセスに適した配合量を明らかにした。分解過程を経たサンプルは、導入した引張試験機にかけられ、それを通して機械特性を解析した。得られた実験データからは、生分解性材料の機械特性変化と分解度の間には一定の関係があることが分かり、それによって機械特性の変化を数式で定量的に表すことができるようになった。 上述の定量化された分解に対する機械特性の変化を、パラメータとして実装した、ソフトアクチュエータのシミュレーション環境を構築した。これによって、大変形を伴うソフトアクチュエータの動作を、各分解過程における材料変性の影響を考慮する中でシミュレートすることができるようになった。シミュレーション環境は、生分解性ソフトアクチュエータの設計を許容し、制御則の確立にも寄与することができると考えられるが、そのツールとしての妥当性を検証するために、実機アクチュエータとの比較実験を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題における当該年度の達成事項は、ソフトアクチュエータ用の生分解性材料を、微生物による分解過程を与えながら引張試験によって特性解析し、分解による材料の変性を時系列の材料・機械パラメータとしてデータセットにすることである。 この目的に対して、分解の度合いに応じた材料の変性を、機械特性として取得できる実験プロセスを確立した。このプロセスは、材料の作製、分解、および引張試験を通した解析からなり、それぞれにおける適切な温度、湿度、および時間を明らかにした。これによって、温度や湿度、微生物の活性度といった環境因子を制御下におきながら、材料の機械特性の変化を明瞭に追えるようになった。実験サンプルを引張試験機にかけ、様々な分解度における機械特性を解析した。分解度は質量変化から与えられる尺度で、当初予定した時系列データと比べ、より正確に材料分解を表せることが分かった。実験で使用した材料は、当初の計画通りゼラチンとグリセロールの混合物であり、乾燥と吸湿の観点から実験に適した配合量を明らかにした。この材料を上述の実験プロセスにかけて、分解による材料の変性を材料・機械パラメータ(ヤング率と破断伸び)としてデータセットにした。また、分解と変性の関係を数式で簡単に表すことができるようになった。 実験的に取得した材料・機械パラメータを実装した、シミュレーション環境(当該年度のみ有効なソフトウェアを共用で使用)を構築した。これによって、大変形を伴うソフトアクチュエータの動作を、各分解過程における材料変性の影響を考慮する中でシミュレートできるようになった。シミュレーション環境の、設計・制御ツールとしての妥当性を検証するために、実機アクチュエータとの比較実験を開始した。 平行して国内外の研究機関との共同研究を、他の生分解性材料やソフトデバイスの探求という観点より実施してきており、継続中である。
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今後の研究の推進方策 |
構築したシミュレーション環境の妥当性を検証するために、実機アクチュエータとの比較実験を行う(ソフトウェアはライセンス制のため新規導入)。アクチュエータは当初の計画通り空気圧で曲げ変形するものとし、分解度ごとの入力圧力に対する曲げ角度を、シミュレーションと実世界の双方で測定する。両者を比較し、一致が見られればシミュレーション環境は機能しており、生分解ソフトアクチュエータの設計手段として妥当であると結論付けられる。一方で、両者に顕著が相違が見られる場合は、その原因を探り解決に当たる。現時点で想定される問題としては、構造を起因してアクチュエータの変形が複雑になり、純粋な曲げ動作がなされないことである。これに対しては、アクチュエータの形状を変更して対処する。シミュレーション環境に妥当性が見出された後は、アクチュエータの動作制御に焦点を置き、制御法の確立を行う。ここで、当初の計画では寿命(=時間)がシミュレーションパラメータの一つとなっていたが、前年度の成果により、分解度の方がより正確に材料変性を描写できることが分かっているので、こちらについては優先順位を下げる。 上述した取り組みで得られた知見に基づいて、生分解性ソフトロボットを開発する。ロボットは3 つほどのアクチュエータからなる単純なものとし、幼虫のように地上を這うように進む。シミュレーション上で目的とするロボットの変形に必要な空気圧を分解過程を考慮して算出する。続いてロボットを実際に製作し、分解過程における動作を評価する。これはロボットが地上を這う速度を測定することで行う。シミュレーション上で算出された制御入力が、ロボットの目的とする動作を分解過程を経る中で常に達成することができているか検証する。これによって、生分解性ソフトアクチュエータの設計と動作制御の指針が、ソフトロボットの開発に生かせることが実証できる。
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