研究領域 | ソフトロボット学の創成:機電・物質・生体情報の有機的融合 |
研究課題/領域番号 |
19H05329
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
橋本 稔 信州大学, 繊維学部, 特任教授 (60156297)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | PVCゲル / 人工筋肉 / 3次元 / 高分子アクチュエータ / ポリ塩化ビニル / 3次元変形 |
研究実績の概要 |
本研究では、骨格を持たないソフトアクチュエータを創製し、3次元的に変形させることを目的とする。柔軟で形状適応性に優れたソフトアクチュエータが制御によって任意の形状に変化することができれば、ハンドロボットの様に物を掴んだり、マッサージ器の様に対象物にソフトな外力を与えたりと様々な用途に使用できる。研究代表者らはPVCゲルを用いた高分子ソフトアクチュエータの研究開発を行っており、そのアクチュエータは電極とPVCゲルが厚さ方向に交互に積層された構成となっている。駆動方向は積層された厚さ方向の一軸である。本研究では用いる電極を球状にして、駆動方向に制限を持たない3次元形状制御ソフトアクチュエータを構成した。試作した3次元形状制御ソフトアクチュエータは、陰極・陽極に直径5.0mmの金属ビーズを使用し、陽極は縦横2列の計4個を導電性糸で固定及び配線した。陰極はPVCゲルをコーティングし、内包された陰極を8個の陽極で取り囲む構造となっている。このアクチュエータを基本構造として特性を評価した結果、400Vの電圧印加時には、配置された各陽極がユニットの中心にある陰極に向かって約160μm変位し、アクチュエータの厚さ方向には約250μm変形することが確認された。制御方法については、リレードライブ回路を開発して多チャンネルでの制御方法を確立し、9chでの制御に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アクチュエータユニットとして、PVCゲルでコーティングされた球状の陰極の周囲に同じく球状の陽極を8個配置し、PVCゲルと球状電極計9個(陰極1,陽極8)から成るアクチュエータを作製した。このアクチュエータユニットを用いてPVCゲルコーティング厚によるアクチュエータ変位量を比較したところ、PVCゲル厚が大きいほど変位量は大きくなり、膜厚1000μmでその効果は飽和することが分かった。また、ゲルの変形挙動の界面観察を行ったところ、同じ電圧でも電極の曲率によって這い出し挙動と吸着挙動に分かれることが確認された。アクチュエータの変位量を得るためには、PVCゲルの這い出し挙動が必要であり、電極に浅く細かい凹凸がある場合に這い出し挙動が見られることが分かった。 次にアクチュエータユニットをマトリクス状に配置して3次元形状制御ソフトアクチュエータを構成した。本研究では、アクチュエータユニットを縦5列・横6列・高さ2段の合計60個配列した。制御方法については、リレードライブ回路を開発して多チャンネルでの制御方法を確立し、9chでの制御に成功した。また、ユニット構造を多列に配置することによって、アクチュエータの変位量は増大した。厚さ方向での変位量の場合、400V印加時の変位量はアクチュエータユニット単体では約250μmであったのに対して、ユニット2段では約400μmと1.6倍となった。以上により、本研究では任意の陽極を駆動することによって、アクチュエータの表面を一部凹ませるなど、表面形状を変化させることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
球状電極を用いてPVCゲルアクチュエータを作製し、リレードライブ回路による電極の独立制御を達成したが、課題も多く残る。最重要課題は、アクチュエータの3次元変形をコントロールするための位置制御方法の確立である。まずは、アクチュエータユニットを用いて任意の電極を任意の変位量に変形させるための制御を実現する。その他の課題としては特性の向上が挙げられる。大きな変形を可能とするためにはアクチュエータユニットの変位量向上が必須となる。今後はゲルの這い出し挙動に適した電極の表面形状や寸法、曲率の最適化を図り、さらに可塑剤含有量などからゲルの弾性率を調節して変形し易い構造へと改良する。また、現在は9chの制御が可能となっているが、より複雑な動きをするためには更にチャンネル数を増やす必要がある。さらに配線の被覆・絶縁方法の確立や構造上崩れやすい形であるためアクチュエータの固定方法も検討する。固定方法としてはPVCゲルやシリコンなどの薄膜のフレキシブル素材でのコーティングが考えられる。
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