研究実績の概要 |
歴史的に特に北日本において重要な穀物であった雑穀アワとキビについて、日本への伝播の歴史と集団構造について研究を行ってきた。雑穀アワとキビはどちらも8,000年~10,000年前の中国を起源地とし、弥生時代に日本に伝播したものと考えられている。キビの祖先野生種は日本国内で確認されていない一方、アワと祖先野生種エノコログサは、どちらも二倍体植物で、遺伝子流動があることを示す研究例もある。本研究では、まずアワと近縁野生種間における遺伝子流動の程度を評価し、その後各種の集団構造を調査した。 日本国内系統および海外系統の栽培種のアワ、キビ、さらに日本国内各地から採取したアワの祖先野生種エノコログサ、近縁野生種アキノエノコロおよびキンエノコロについてRAD-seq解析を行い、遺伝的多型データからそれらの集団構造を解析した。その結果、沖縄を除く日本において、栽培アワと近縁野生種間の遺伝子流動の影響は小さいことが判明した。分子系統学的解析の結果から、日本国内の栽培アワは、九州系統が最も海外(東アジア)系統に近縁で、北日本に向かうにつれて徐々に分化していく傾向がみられたことから、九州に伝播したアワが徐々に北海道に向けて広まっていった歴史を反映していると考えられる。一方、栽培キビは、東北以北と関東以南で大きく二つのクレードに分かれ、北日本のものは遺伝的多様性が高く、関東以南のものは遺伝的多様性がほとんどないことが明らかになった。よって、関東以南のキビ系統は、最近伝播あるいは系統化されたものが近年急速に広まったものと考えられる。北日本のキビの由来については、さらなる議論が必要である。加えて、栽培種、野生種問わず南北方向に地理的文化が見られ、温度や日長などに対する適応があったものと考えられる。本研究では、雑穀アワ、キビが日本へ伝播し広まっていった歴史について、集団遺伝学的手法により概観した。
|