研究実績の概要 |
本年度は、日本列島内で観察される身長の地域差が生じた要因を探るべく、身長のポリジェニックスコア(PS)を用いた解析を行った。 PSは、ゲノムワイド関連研究(GWAS)で調べた多数の一塩基多型(SNP)を集約して算出される指標であり、PSを用いると個体の表現型を遺伝学的に推定することができる。UK Biobank (UKBB)などの大規模バイオバンクプロジェクトによるGWASが実施されるようになり、より正確なPSの計算が可能になってきた。例えば、PSを計算することで、疾患のリスクが高い個人を特定することや、ヨーロッパにおける身長の地理的勾配を説明することに成功している。日本では身長の地理的勾配の存在が約100年前から知られており、北日本の人は南日本の人よりも身長が高い傾向にある。このような身長勾配の要因として、北日本と南日本の各県の年間気温や日長の違いが指摘されてきた。身長の遺伝率は60%~80%と高く、多数の多型が関連しているが、日本における身長の地理的勾配に対する遺伝的寄与はまだ調べられていない。そこで、日本の47都道府県から収集した10,840人の日本人を対象に、身長のPSを算出した。各都道府県の身長PSの中央値は、独立した日本全国の身長データセットから得られた女性および男性の平均身長と有意な相関があり、観察された身長勾配には遺伝的な寄与があることが示唆された。また、現代の日本人集団は、長期にわたり日本列島に居住していた縄文人と弥生時代以降にアジア大陸から移住してきた渡来民が混血した集団であるが、遺伝的に東アジア大陸集団(中国・漢民族)に近縁な都道府県ほど身長のPSが高い傾向にあることも分かった。北日本が遺伝的に東アジア大陸集団と遺伝的に近くはないことを考えると、縄文時代には既に身長の地理的勾配が形成されていた可能性がある。
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