北海道在住の成人352名を対象として、放射性フッ素同位体標識グルコース投与とPET-CTによる褐色脂肪組織活性の測定実験を実施し、同時に口腔スワブ由来のゲノムDNAを収集した。Axiom Japonica Arrayで約66万のSNPの遺伝型判定を実施後、インピュテーションを実施し、全ゲノム規模でのSNPと小規模な挿入・欠失多型を含むsmall nucleotide variant:(SNV)の遺伝型データを取得した。クオリティ・コントロール後の約570万のSNVを用いてGWASを実施した。なお、GWASでは被検者の性別と年齢を共変量として投入した。GWASの結果、12番染色体長腕領域にゲノムワイドな有意水準であるP < 5×10-8を記録したSNVが複数検出された。最も低いP値が記録されたSNVは、TGジヌクレオチドリピートからなる繰り返し多型で、被検者集団の中に繰り返し数が14、15、および16の少なくとも3つのアレルが存在しており、14回繰り返しアレルの保有者が褐色脂肪組織活性が低い傾向があった。次に、九州大学で実施した寒冷曝露実験の被検者についてもこのTGリピートの遺伝型判定を実施し、寒冷曝露下での各種生理反応との相関を調査した。その結果、14回繰り返しアレルの保有者は、褐色脂肪組織の主要な存在部位である鎖骨上窩部の皮下温度が低いことが判明した。さらに、寒冷曝露開始後55~85分の間での酸素消費量の増大が、14回繰り返しアレルの保有者ではより小さいことが明らかになった。また、この繰り返し多型のアレル頻度を1000人ゲノム計画の試料で調査したところ、褐色脂肪組織の活性が低い14回繰り返しアレルは、日本人をはじめとした東アジア人で高く(50%)、南アジア人・ヨーロッパ人では低いことが明らかになった(それぞれ19%と8%)。
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