遺跡から出土する動物骨中のコラーゲンタンパク質は非常に安定であり、歯石中に残されたタンパク質も古代人の疾患や食生活の復元について有用な知見をもたらす。一方で、植物遺存体は、イネ果実のように経年により炭化することも多く、タンパク質の分析については実験系が確立されていない。本研究では、動物骨や歯石のプロテオーム解析に加えて、炭化米等の植物遺存体からタンパク質を抽出・精製する方法について検討を進め、質量分析計を用いたショットガンプロテオミクスを行っている。前年度に開発したアセトン沈殿によるタンパク質精製を改良した方法を用いることで、弥生時代の福岡の2遺跡と韓国の1遺跡の3種のイネ果実(炭化米)試料から、多数のペプチドを検出し、多くのタンパク質を同定することができた。同定されたタンパク質の多くは、イネ種子に特異的に蓄積していると報告されていたタンパク質であり、中でも、63kDグロブリン様タンパク質は、3遺跡全ての試料で同定され、いずれも多数のペプチド(4-12本)が検出された。イネ科には、この63kDグロブリン様タンパク質と類似なタンパク質が存在し、キビ属とは70%弱の類似性であり、異なるアミノ酸配列が多数見出されたことから、イネとキビなどの雑穀を分別できるマーカータンパク質の候補と考えられた。また、ジャポニカとインディカにおいても複数のアミノ酸が異なっており、多数のペプチドを検出できれば、判別が可能であると考えられた。また、土器付着物についても、植物遺存体を用いた上記に類似した方法を適応して解析を進めており、植物だけではなく、動物や微生物由来のタンパク質も検出されており、土器付着物のプロテオーム解析による食生活の復元に向けた実験基盤を確立することができた。
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