研究実績の概要 |
現代日本人のゲノム多様性と地域差を明らかにするため、宝来聰博士が沖縄、鹿児島、福岡、静岡、青森で収集した合計380個体のDNA試料を使い、SNPアレイによる解析を行った。このデータに対してSTRUCTUREによる集団構造解析を行ったところ、沖縄とそれ以外の地域の2集団には明確に分離できるものの、それ以上の分集団への分離は難しいことが判明した。そこで、他の4集団と比べて頻度が10%以上異なるような地域特異的なSNPs6,884ヶ所を選び出して集団構造解析を行うと、5つの地域集団をよく分離できた。次に、同じデータを使って日本列島における遺伝子頻度勾配を解析した。日本人のABO血液型の遺伝子頻度には日本列島に沿って地理的勾配があることがよく知られているが、ゲノムワイドなSNPsが同様の傾向を示すのかは明らかでない。そこで、211,332件のSNPsの中から、福岡・静岡・青森の3地点での遺伝子頻度の数値が(福岡<静岡<青森)または(福岡>静岡>青森)の順序であるSNPsが、どのくらい存在するかを調べた。その結果、このようなSNPsはランダムな分布に比べて約7.5%多いことが判明した。この偏りは遺伝的浮動によって偶然に形成されたものではなく、歴史的な背景により形成されたと考えられる。現代日本人のゲノム多様性の形成には弥生時代に大陸から多くの移民が流入したことが重要な影響を与えたと想定されており、本解析により判明した「福岡ー静岡ー青森」の区間でのゲノムワイドな遺伝子頻度勾配は渡来人の混血の影響と考えられた。このほか、現代日本人におけるHLA遺伝子の地理的分布を調べた。骨髄バンク登録者17万7041人のHLA型データを使い、都道府県ごとにHLA-A, B, C, DRB1の4遺伝子座の対立遺伝子頻度およびハプロタイプ頻度の推定を行い、その主成分分析および集団系統樹の結果を論文発表した。
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