本研究の目的はアズキの栽培化起源地が日本列島にあるという仮説をゲノム解析によって検証することである。考古学的な証拠からは、アズキ種子の大型化は日本では約6千年前から生じていたのに対し、中国・韓国では3千年前以降に生じたとされており、アズキの栽培化は日本で先行していたと考えられる。しかし、種子の大きさは環境要因による影響を受けやすい形質であるため、証拠としては必ずしも強いものではない。一方で、栽培型形質の中でもアズキの赤い種皮色には強い人為選抜が掛かっているため、選択的一掃などの影響を容易に検出できると考えられる。そこで、本研究ではアジア各地から採集された栽培型・祖先型のアズキ系統群を用いた全ゲノム解析により、上記仮説の遺伝学的な検証を行う。 そのため、本研究では①ナノポアシーケンサーを用いたアズキ参照ゲノム配列のアップデート、②日本・中国・韓国・台湾・ネパール・ブータン・ベトナム・ラオス・ミャンマーから採取された103系統のリシーケンス解析、および③種皮色・斑紋を支配する遺伝子座の集団遺伝学的解析を実施した。 これらの結果から、アズキの赤色を支配する遺伝子座の塩基多様度が栽培系統群で特に低いことが明らかとなり、これが単一起源であることが示唆された。さらに、日本の祖先系統の一つがこの領域について栽培型系統群とほとんど同じ塩基配列を有していたことから、少なくともアズキの赤色が日本列島(特に西日本)で発祥した可能性は高いと考えられた。また、現在ネパールやブータンで栽培されているアズキは、現地の祖先型系統とは大きく異なる遺伝構造を有しており、かつ中国の祖先系統と比較的近いことが示唆された。したがって、これらは中国で独自に起源したものが伝播し、未だ栽培し続けられているものと考えられた。
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