研究領域 | 植物の力学的最適化戦略に基づくサステナブル構造システムの基盤創成 |
研究課題/領域番号 |
19H05359
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
島 弘幸 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (40312392)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | タケ / イネ / アロメトリー / 細長比 / 断面二次半径 / 座屈 / 中空パイプ / 力学的最適構造 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、タケの形態に秘められた力学機能を深く理解し、これを模倣した力学的最適構造システムを創製することである。この目的達成のために、タケが進化の過程で獲得したであろう「最少材料・最大強度」の設計原理を、物理学・数理科学の視点から解明する。竹はしばしば、「見落とされたバイオマス」と呼ばれる。その所以は、世界中で1500通り以上の利用法が発見されているにも関わらず、竹の利活用に関する学術研究が絶対的に不足しているためである。こうした背景を踏まえると、竹に関する昔からの言い伝えや経験則を、自然科学の視点から客観的に実証することが非常に重要であることがわかる。 この背景を受けて本年度では、タケの形態に秘められた力学機能の理論的理解およびその機能形態を模倣した力学的最適構造システム開発のためのデザイン指針提案を目指した。具体的には、高さ・太さ・稈に沿った細り具合、がそれぞれ異なる5種類のタケを選んで、力学的合理性から期待される形状ルールの存在を実験的に検証した。日本各地の竹林で各々の種の竹サンプルを数十本伐採し、節間隔・肉厚・外径・内径などの測定データを集計した結果、異なる種を跨ぐ形状ルールが存在することを証明できた。この結果は、タケが進化の過程で獲得したであろう「最少材料・最大強度」の設計原理が存在することを示唆するものである。よって今後、この原理を理論・実験の両面から解き明かすことで、高層タワーや海中パイプラインなどを合理的に設計する際の指針に繋がることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度に実施した研究課題のひとつが、竹の外形を統べる共通則の存在是非である。ひとくちに竹と言っても、高さ15 mに及ぶモウソウチクから、3 m 程度までしか伸びないクロチクまで、様々な種類がある。そして竹が力学的最適化を具現する植物であるならば、その外形には一定の共通ルールが潜んでいると推測できる。そこで本テーマでは、高さ・太さ・稈に沿った細り具合、がそれぞれ異なる5種類のタケを選んで、力学的合理性から期待される形状ルールの存在を実験的に検証した。日本各地の竹林で各々の種の竹サンプルを数十本伐採し、節間隔・肉厚・外径・内径などの測定データを集計した結果、異なる種を跨ぐ形状ルールが存在することを証明できた。具体的には、各節間における木質部の正味体積ならびに各節間部の細長比(断面二次半径を節間長で除した量)のデータ点が、種に依らず一定の共通曲線に載ることがわかった。一連の成果を原著論文にまとめ、学術雑誌に投稿し、現在査読中である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究で展開するテーマのひとつが、タケの中でも特殊な種とみなされるシホウチクの力学的合理性である。竹の断面は一般的に、中空・同心円状の形を示す。しかし竹の中には、断面が丸みを帯びた四角形を示す「シホウチク」と呼ばれる種が存在する。果たしてこの四角形断面は、通常の円形断面に比べて、某かの力学的合理性・優位性があるのだろうか?この動機を受けて翌年度の研究では、こうした丸みを帯びた四角形の断面形状を数学的に記述する手法を考案し、その断面二次半径と断面係数を定式化することで、シホウチクの断面性能を理論的に考察する。この計算を遂行することで、内側断面形の角張り度合いと、外側断面形の丸み度合いが、各々異なる様式で断面性能に寄与することを定量的に記述できる可能性がある。その成果は、高層建築物や海中パイプラインを設計する際に必要となる、軽量性・高剛性・省材料性を兼ね備えたスマート構造の設計指針に役立つと期待できる。
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