研究領域 | 植物の力学的最適化戦略に基づくサステナブル構造システムの基盤創成 |
研究課題/領域番号 |
19H05361
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
野田口 理孝 名古屋大学, 高等研究院(生), 准教授 (00647927)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 接木 / 組織修復 / グルカナーゼ遺伝子 / ベンサミアナタバコ / 接着力 |
研究実績の概要 |
接木は人為的に植物を傷つけて、植物の自然の治癒能力によって傷口を修復・復元させることで、植物の個体/組織を再構造化する技術である。本研究はこの接木に着目して研究することにより、植物の個体/組織レベルの修復・復元様式を紐解き、力学的に保証された組織構造の可塑的な構築戦略について理解を深めることを目的とする。これまでの研究で見出した、接木部位の組織修復に働くグルカナーゼ遺伝子に着目して研究を行うこととし、分子生物学的な手法あるいは化学的手法によって、グルカナーゼのオン・オフを制御した際の組織修復への影響を定性的・定量的に調べる。一年目は、組織修復程度の指標となる接木部位の組織の物理的接着力を測定する手法を確立した。植物の組織片を専用のマイクロセル内で圧着して培養した後に、フォースゲージを用いて接木部位の物理的な接着力を測定する手法である。また、グルカナーゼ遺伝子を過剰発現するタバコ形質転換体あるいはグルカナーゼ遺伝子をゲノム編集によりノックアウトしたタバコ形質転換体の作出を進めた。現在までに形質転換体が確立されつつあり、順に確立した測定法により影響を定量評価していく予定である。このように、建材となる樹木等の植物資源の特性を任意に制御するための基盤情報を取得することで、植物の組織構造特性や強度等を人為的に積極的に制御・改変する技術へとつなげたい。また、可能であれば生物システム模倣による強靭でかつ柔軟な建築様式の着想に通じる成果にもつなげたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
一年目は、接木部位の組織修復程度を評価するため、植物の切断した茎2片をマイクロセル内で圧着して培養することで組織を接着(接木)するin vitro grafting(IVG)法を準備し、接木ジョイント部の力学的特性を調べる接着力測定系を確立することができた。専用のマイクロセルを用意し、その内部でIVGを行い、フォースゲージを用いて接木部位の物理的な接着力を測定した。経日的にデータを取得したところ、接木部位の接着力は接木して2〜7日目に次第に高まっていくことが明らかとなった。これを基本情報として、接木時に働くグルカナーゼ遺伝子の働きを正負に制御した際の接木接着力への影響を調べていく。 二年目の解析の準備として、一年目はグルカナーゼ遺伝子を過剰発現するタバコ形質転換体あるいはグルカナーゼ遺伝子をゲノム編集によりノックアウトしたタバコ形質転換体の作出を進めた。現在までに形質転換体が確立されつつあり、順にIVG法により影響を定量評価していく予定である。 さらに現在は、接木した際に特異的に働くグルカナーゼのタンパク質構造と基質特異性を調べる研究も展開しはじめた。また、接木時の細胞壁成分について基礎データを集めはじめた。 以上のように、研究目標に向けた着実な成果を得ることができ、さらに当初の計画にない研究展開も開始することができた。
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今後の研究の推進方策 |
二年目は、確立したIVG法によって、グルカナーゼ遺伝子をオン・オフ制御する形質転換体についてその組織接着への影響を調べる。そのうえで、温度や照度といった制御可能な環境要因の変化による影響を調べることも検討する。組織修復がどのように果たされるかを物理的な接着力を指標に調べることで、生物学的プロセスを理解するとともに、構造構築技術への知識の構築に貢献する。研究標的するグルカナーゼについては分子機作の詳細についても、構造的視点や基質特異性の視点で解析を深めることによって、上記の各々の制御が、分子レベルでどのように説明されるかも検討することで、技術をシミュレーションするといった方向性でも検討を進めたい。
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