接木は人為的に植物を傷つけて、植物の自然の治癒能力によって傷口を修復・復元させることで、植物の個体/組織を再構造化する技術である。本研究は接木に着目して研究することで、植物の個体/組織の修復・復元様式を紐解き、力学的に保証された組織構造の可塑的な構築戦略について理解を深めることを目的とした。これまでの研究で見出した、接木時に働くグルカナーゼ遺伝子に着目して研究を行い、分子生物学的な手法あるいは化学的手法によって、グルカナーゼのオン・オフを制御した際の組織修復への影響を定性的・定量的に調べた。また、組織修復程度の指標となる接木部位の組織の物理的接着力を測定する手法を確立した。植物組織片を専用のマイクロセル内で圧着して培養した後に、フォースゲージを用いて接木部位の物理的接着力を測定する手法である。グルカナーゼ遺伝子を傷誘導性プロモーターで過剰発現するタバコ形質転換体と、グルカナーゼ遺伝子をゲノム編集によりノックアウトしたタバコ形質転換体の作出を行い、それらの材料を用いて接木試験を行った。実験の結果、グルカナーゼ遺伝子を接木部位で過剰発現させた植物では接木の接着力が高まる、反対にグルカナーゼ遺伝子をノックアウトしたタバコ形質転換体では、接木効率が下がることが確認された。同様の結果は、シロイヌナズナで形質転換体を作出して調べた場合にも得られ、植物の組織修復に一般的に有効な技術であることが確認された。さらに、グルカナーゼを接木ジョイント部に外的投与した場合についても調べ、グルカナーゼを投与すれば、様々な植物の接木ジョイント部の接着力を向上させることができることを明らかにした。以上より、本研究では接木の基盤情報を取得し、建材となる樹木等の植物資源に対し、組織構造特性や強度等を人為的に積極的に制御・改変する技術の道筋を示すことができた。
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