シロイヌナズナの花粉の外殻構造である網目状エキシンは、例えば膨圧の変化で花粉が収縮したり膨張したりする場合でもフレキシブルに変形し、決して潰れることはなく内部の配偶子を守っている。今年度は収束イオンビーム-走査型電子顕微鏡法(FIB-SEM)を用いてシロイヌナズナのエキシンの微細構造の三次元イメージングに取り組み、サンプルの前処理方法や染色法を工夫することで、ナノメートルスケールの微細なエキシンの構造を立体画像として取得する方法を確立した。今後は力学的強度が低下した突然変異体の花粉の観察を行い、どのような構造変化が起きているかを野生型と比較検討して、しなやかさと強さを持つ構造を作るためにどのようなしくみが働いているのかを解明したい。 エキシンの強度が低下した花粉を作る突然変異体の解析も行なった。今年度解析した突然変異体の花粉は網目サイズが野生型よりも大きくなっており、網状構造を持ち上げる柱状構造の長さがバラバラだったりまっすぐ立ち上がっていなかったりしたため、網そのものも平滑な局面を作れず歪んでしまっていた。原因遺伝子は細胞内小胞輸送の制御因子であり、若い花粉の表面で網の目を作るのに働くキシランなどの多糖の生合成や分泌に影響している可能性がある。実際、キシランの量は野生型よりも減少していた。このことは網の目が大きくなる表現型とは一見矛盾するのだが、キシランが減ったこと以上にペクチンが増加しており、それが大きな網の目の形成に寄与したと推定された。本研究より、ペクチンも網の目の形成に重要な役割を持つことが明らかになった。
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