シロイヌナズナ葉面のトライコームは、表皮に近い基部付近にプライアントゾーンと呼ばれる伸縮性に富んだ部位があり、他の領域は剛性が高い。そこで、トライコームを1つのばねと定義し、ガラスキャピラリーを用いてトライコームを屈曲させる力を測定することでばね定数を算出した。さらに、あらゆる部位や角度から荷重を負荷されたトライコームを観察するため、角度調節が可能なミラーを用いた柔軟な観察環境を構築した。今後は、実際の雨がトライコームに負荷する荷重を求めるため、葉表面に水を滴下した時のトライコームの構造変化をハイスピードカメラで撮影し、画像解析技術と測定値を用いてトライコーム基部に負荷される荷重を求める。 次に、RNA-seq解析によって同定した力学的刺激応答性遺伝子群のプロモーター解析を行った結果、CAMTA転写因子の認識配列が検出された。CAMTA転写因子が標的遺伝子の発現を直接制御しているかを調査するためにChIP-seq解析を行った結果、CAMTA3はTCH2やCBP60gのプロモーター上のCGCG-boxに恒常的に結合していることを明らかにした。CAMTA3の変異体に力学的刺激を負荷した後に病原細菌を接種したところ、野生型植物と比較し、抵抗性は抑制されていたことから、CAMTA3は同免疫に関与することが示唆された。 さらに、トライコーム依存的に生じるカルシウムウェーブの制御因子のスクリーニングを行った結果、各欠損変異体において力学的刺激誘導性遺伝子の発現レベルが低下する、または病原細菌に対する免疫応答にも影響が認められる候補遺伝子をいくつか同定した。今後は、トライコームの力学的刺激受容センサーとしての力学的特性の解明を目的として、負荷される荷重と、それによって変化するトライコーム構造、そして細胞内カルシウムイオン流入の関係性を明らかにする必要がある。
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