研究領域 | 植物の力学的最適化戦略に基づくサステナブル構造システムの基盤創成 |
研究課題/領域番号 |
19H05367
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野村 真未 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(PD) (40770342)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 有殻アメーバ / 被殻構築 / 卵型被殻 |
研究実績の概要 |
有殻アメーバのポーリネラは細胞骨格を建機の様に利用し、珪酸質の鱗片を巧みに操作して細胞外の鋳型のない空間に卵型サステナブル被殻を形成する。ポーリネラの卵型被殻は約50枚の大きさの異なる鱗片が規則正しく並べられた構造をしており、個々の鱗片は基本的に丸みを帯びた直方体である。小さい鱗片は開口部と細胞後方に、大きい鱗片は中間層に配置されるため卵型の形態をとる。つまり、卵型被殻を構築するには大きさの異なる鱗片を正しい位置に配置する必要があり、立体的なパズルの様に、あらかじめ鱗片が配置されるべき場所が決まっていると考えられる。ポーリネラの被殻構築中の細胞挙動から数理モデルの構築ができれば建築技術に非常に有益な情報をもたらすはずである。しかし、形の異なる鱗片がどのようにして力学的に最適な位置に配置され、規則正しく鱗片の並んだ殻が構築されるのかは全く分かっておらず、モデル構築への指針もたっていない。そこで、本研究では有殻アメーバが持続可能な卵型構造を形成するシステムの数理モデリングへ向けた情報を得るため、ポーリネラの被殻構築過程における鱗片、および関連する細胞骨格の挙動を 4D イメージングにより明らかにする。本年度はポーリネラの被殻構築において細胞外に保持されている鱗片が力学的に最適な位置に配置される原理を明らかにする第一歩として、蛍光染色した鱗片の挙動を共焦点レーザー顕微鏡を用いてタイムラプス撮影を行った。その後、一枚一枚の鱗片をトラックし、鱗片の挙動を解析した。画像解析の結果、細胞外に分泌された鱗片は正確な位置に配置される直前に太い仮足の中央付近に運ばれ、方向が変えられ正しい位置に配置されていた。この時、内側から外へ押す力を利用し、ダイナミックに運搬されていると考えられた。また、運搬される鱗片は「動く→止まる」を周期的に繰り返すことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ポーリネラは細胞内で形成した鱗片を細胞外に分泌し、その鱗片を巧みに操り細胞外に新規殻を構築する。この鱗片分泌から被殻が構築され終わるまでには実に10時間以上を要する。また、鱗片を細胞外に保持している細胞は活発に底面を移動するため、タイムラプス撮影をセットしても、数時間後にはフレームアウトしていることがよくある。これらの理由から、鱗片分泌から被殻構築までを単一の細胞で撮影するのはかなり骨の折れる作業である。加えて、研究実施者がスペインに10ヶ月間留学していたため、解析に十分量のタイムラプスデータを取得するのに時間を要したが、現在までに画像解析を行うに当たり十分量のデータ取得に成功している。現在はこれらのデータを用いて、鱗片の挙動を明らかにするため画像解析を行っている。 鱗片分泌ステージにおいて、ポーリネラは鱗片を塊にして保持しており、一枚一枚の鱗片はほとんど隙間なく密接している。そのため、どこからどこまでが一枚の鱗片であるのかを見極めるのはマニュアルで見てゆく必要があり、鱗片トラッキングを自動化することは不可能であることから、予定していたよりも時間がかかっている。また、研究遂行者のPythonなどの基礎知識が不足しているため、鱗片のトラッキングデータを模式的に図示するのに苦戦している。このように。画像解析とその表現方法の工夫に時間を要している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
先に述べたとおり、研究遂行者のPythonなどの基礎知識が不足していることから、画像解析に苦戦している状況である。そこで、新学術領域「植物構造オプト」の画像解析支援を申請し、本研究に適した解析方法や図示の仕方をご教授いただく予定である。 被殻構築中の細胞において、太い仮足内部をねじれた微小管が配向していることが間接蛍光抗体法により、明らかになっている。また、ポーリネラの卵型の被殻は右側の鱗片が左側にかさなり、螺旋を描くように配置されていることがわかっている。これらの情報から、ポーリネラの被殻構築中に観察される太い仮足内部の微小管は鱗片を螺旋状に配置する現象に関与していると考えられている。しかし、これは予測であり、実際に微小管と配置されてゆく鱗片の関係はわかっていない。そこで今後は、画像解析と並行して被殻構築中の微小管の配向をライブイメージングすることにより、鱗片挙動と微小管の関係を明らかにする。ポーリネラ細胞は強い光に弱いため、これまでの共焦点レーザー顕微鏡によるイメージングでは、細胞に害の少ない長波長のレーザーをかなり弱い強度で照射し、観察してきた。微小管と鱗片の両方を染め分けるには、より長波長のレーザーを使わなくてはならないため、工夫が必要であると考えている。具体的な対策としては、長波長の励起光を微小管観察に用いて、スキャンスピードを長めに、より高精細なデータを取得する一方で、既に挙動パターンの取得を終えている鱗片は短波長の励起光を用い、短時間スキャンを行うことで、細胞へのダメージを最小限に抑える。画像解析は、鱗片挙動だけの解析よりも情報量が増え、扱いが難しいことが予想されることから、支援班の協力を得たいと考えている。
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