研究領域 | 発動分子科学:エネルギー変換が拓く自律的機能の設計 |
研究課題/領域番号 |
19H05379
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
島 知弘 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (60631786)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 圧電活性 / プレスチン / SLC26 / 蝸牛増幅 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、非常に高い電気→運動エネルギー変換効率を誇る哺乳類内耳の外有毛細胞の発動機構を明らかにすることである。 外有毛細胞の電位依存的な伸縮運動を駆動する膜タンパク質分子モーターとしてプレスチンが同定されている。プレスチンは、その高い応答速度(1万Hz以上)や人工圧電素子の約1万倍に及ぶエネルギー変換効率から工学的にも非常に興味深い。しかし、詳細な分子機構研究に必要な活性を保持した遺伝子組換えプレスチンの精製に成功した報告はこれまでになく、プレスチン自身の動作機構およびプレスチンの運動が細胞全体の伸縮運動に増幅される仕組みは共に不明である。本研究ではこのエネルギー変換の仕組みを解明することを目的として、遺伝子操作及び精製可能な新規圧電アクチュエータ分子を創製する。その端緒として、電位感受活性についてプレスチンの属するSLC26イオン輸送体ファミリーに対する網羅解析を行い、複数のタンパク質がこれまで知られていなかった高速な電位感受応答活性を示すことを明らかにした。これまでは膜電位感受能はSLC26ファミリー内でプレスチンに特有のものと考えられてきたが、本成果により複数のタンパク質間でのアナロジー解析が可能となり、各ドメインの機能について明らかになりつつある。さらに、我々はプレスチンを含むこれらの分子の運動を可視化する新規システムの構築に取り組み、遺伝子組換えプレスチンを発現させた培養細胞を用いた系において、プレスチン分子の構造変化動態を追跡可能なことを示唆するデータを得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プレスチンの高いエネルギー変換効率の仕組みをしるためには、 1.膜電位変化を感受する分子機構 2.感受した電位変化によって引き起こされる、プレスチン分子の構造変化 3.プレスチン分子の構造変化が、細胞全体の伸縮運動へと増幅される分子機構 の3点を明らかにする必要がある。このうち1.については、本研究によりプレスチン以外にも膜電位感受能力を有するSLC26イオン輸送体が見つかったことで、これまで不可能であったアナロジー解析が可能となり、これまでの研究成果と合わせてプレスチン分子内の各ドメインの役割が明らかになりつつある。また2.についても、当初計画していた完全に人工的な再構成系での運動活性測定には至っていないものの、遺伝子組換えプレスチン分子を発現させた哺乳類培養細胞を用いた系を利用することで、電気刺激依存的に組換えプレスチン分子が構造変化していることを示唆するデータを得ることに成功した。両研究成果とも今後の発動分子研究を大きく推進するものであり、1年目の進捗としてはおおむね順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果として、プレスチン以外のSLC26ファミリータンパク質も膜電位変化を感受する能力があることが示された。本成果の論文投稿を進めるとともに、これによって可能となった各タンパク質間のアナロジー解析を進め、電位感受能の分子機構解明の一助とする。 また2019年度の研究によって、遺伝子組換えプレスチンを発現させた培養細胞を用いた系において、プレスチン分子の構造変化動態を追跡可能なことを示唆する良好な予備データが得られた。本年度は、本手法のさらなる改良と、データの蓄積・解析をすすめ、プレスチン分子および他のSLC26ファミリータンパク質・新規遺伝子組換えタンパク質の電位依存的な構造変化の有無やその動態の詳細を明らかにする。さらに、この1分子の構造変化が細胞全体の大きな伸縮運動へと増幅される仕組みに迫るため、上述の再構成系に要素を足していくボトムアップ型のアプローチと、外有毛細胞からsiRNA等を用いて要素をひいていくトップダウン型のアプローチの両面から、運動増幅に必須な要素を明らかにしていく予定である。
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