研究領域 | 発動分子科学:エネルギー変換が拓く自律的機能の設計 |
研究課題/領域番号 |
19H05382
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
川野 竜司 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90401702)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 膜ペプチド / ナノポア / de novo設計 / 脂質二分子膜 |
研究実績の概要 |
タンパク質のfolding/unfoldingの理解は生命科学の最も重要なトピックスの一つである。ポリアミノ酸であるタンパク質の機能は、そのアミノ酸配列に起因する立体構造によってほぼ決定される。タンパク質の最終的な三次元構造は二次構造であるα-helixやβ-sheetがループでつながり三次元的に配置されたものであるため、アミノ酸の一次配列だけでなくこの二次構造の配置を理解することが重要である。De novo設計はアミノ酸の一次配列を人工的に設計することで最終的な三次元のfolding構造を作る事を目指した設計である。近年では、計算機を用いてアミノ酸の二面角や各種相互作用を詳細に計算することで、水溶性のタンパク質に関しては望みの三次元立体構造を有する人工タンパク質の配列設計ができるようになってきた。膜タンパク質に関してもde novo設計への挑戦が続いていたが、アミノ酸配列のみならず脂質分子との相互作用、疎水性の膜内部と親水性の膜外部のバランスが難しく、なかなか配列設計の成功には至っていなかった。最近申請者らはde novo設計により作製したβシート構造を持つペプチドを脂質膜中で会合させることで電気生理活性を有すβバレル状膜ナノポア(SV28)の合成に成功した。電気生理活性はこれまで申請者が開発してきたマイクロデバイス中に形成した平面脂質膜アレイによって効率的な評価を行っている。またこの平面脂質膜システムを用い、領域内共同研究を進め、ナノニードルタンパク質がモデル細胞膜に刺さる現象の解明に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
天然のタンパク質が脂質膜中にチャネル形成するとき、その膜貫通部位のモチーフの多くはαヘリックス構造である。これらの膜タンパク質は巨大な膜外部位同士が相互作用することで安定なチャネル形成を行う。他方、細菌類などの外膜に存在する膜タンパク質の中にはβバレル構造でポア形成するものが知られている。このβシート構造がバレル上に会合したナノポアは膜外部位がなくても安定なポアを形成する。最近、天然のβヘアピン鎖がβバレル構造を形成することに着目し、短鎖のβヘアピンペプチドを設計し、それらが会合してβバレルオリゴマーを形成することで安定なポアを脂質膜に形成させる研究に取り組んでいる。本年度は脂質膜中でのSV28の会合構造を平面脂質膜システムを用いた電気生理学的手法、固体NMR、MDシミュレーションを用いて検討を行った。その結果、合成したペプチドが形成するナノポアはβバレル構造を有し、その直径はおよそ1~3 nmであることがわかった。また領域内共同研究として平面脂質膜システムを用い、ナノニードルタンパク質がモデル細胞膜に刺さる現象の解明を行い、Nanoscale誌にて共同研究論文を公表した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで申請者は平面脂質膜デバイスで形成する安定脂質膜を利用し、膜中にポアを形成するαヘリックスペプチドに関して研究を進めてきた。短鎖のαヘリックスペプチドはモノマーが膜中で会合してポアを形成する。既に先行研究によりポア形成モデルが複数提唱されており、例えば膜中でモノマー同士が強く会合するbarrel-staveモデルやモノマーの間に脂質分子が挿入されるtoroidalモデルなどが知られている。これまで安定脂質膜による長時間のチャネル電流計測系を用いることで短鎖のポア形成ペプチドが、脂質膜中でどのモデルによりポアを形成するのかといった分子集合状態を推定することに成功している。これは、これまで動的観測が困難であった膜中構造や活性を比較的容易に計測できる手法である。今後、この基盤技術を用いてde novoで設計・合成したβヘアピンポアの構造・活性を評価し構造設計にフィードバックすることにより効果的、精密な分子設計につなげる。またこれと並行して膜中でポア形成する構造の配列一般化をめざし、タンパク質のde novoデザインで用いられているRosettaプログラムを用いて、βバレルの構造設計を行う。また引き続き領域内共同研究を推進する。
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