研究領域 | 発動分子科学:エネルギー変換が拓く自律的機能の設計 |
研究課題/領域番号 |
19H05383
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
帯刀 陽子 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (30435763)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 分子性ナノコイル / 起電力 / 電磁コイル / 伝導性 / 分子集合体 / 分子性導体 |
研究実績の概要 |
伝導性の観点から、分子性導体は半導体から金属・超伝導に至る多彩な伝導物性を示すことが知られており、このような特異な物性を生かしつつ、エレクトロニクス等への応用を可能にするために、分子性導体のナノワイヤ・ナノコイルなどへの材料化、更にはデバイス化が強く望まれている。本提案では、集合状態で導電性を有する分子性電磁ナノコイルの開発を目指す。申請者がこれまでの研究で得た「高導電性分子の設計、合成法」、「1次元ナノ組織体作製法」及び「ナノ物性評価法」を発展させることで、自己活性化分子性電磁ナノコイルを作製し、構造と機能の相関解明に挑戦することとした。 研究を以下2項に大別し、それぞれの研究を進めることとした。 1、新規有機導電性分子の合成と分子性電磁ナノコイルの構築 2、分子性電磁ナノコイルの電気・磁気物性評価 昨年度は、主に、上記1について研究を進めた。分子性導体に「かさ高いキラル分子」と「水素結合部位」を導入することで、非対称な側鎖を付与した分子を合成した。様々な有機導電性分子を用いる計画であったが、合成が容易に進行するTTF分子をコアに導入することとした。分子の両端に異なる相互作用を有する部位を導入することでナノコイル構造を作製した。更に、TCNQ、F2TCNQ、F4TCNQといったアクセプター分子と組み合わせることで、高導電性ナノコイルを作製した。このような分子性ナノコイルは、作製時の温度、溶媒、乾燥時間等の外的要因を制御することで、コイル直径、巻き数、ピッチ、配向性を容易にコントロールすることが可能であった。次に、上記2について着手した。バルク状態での電気伝導度を明らかにした。この時得られたナノコイルは半導体的な挙動を示すことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究を以下2項に大別し、それぞれの研究を進めることと計画した。 1、新規有機導電性分子の合成と分子性電磁ナノコイルの構築 2、分子性電磁ナノコイルの電気、磁気物性評価 主に、初年度は、上記1について取り組み、1で得た新規材料について2の物性評価をすぐに進める計画を立てた。具体的には、両親媒性の分子性導体としてTTF分子に、下記3つの特性を付与した分子を合成することで、分子性ナノコイルの創成を目指した。機能制御の観点から、磁場を与えることで電気を発生する発動分子を用いた分子性電磁ナノコイルを作製した。 A、分子性導体部位には、TTF用いた。更に、F4TCNQアクセプター分子と組み合わせることで、室温で高い伝導性を発現させた。 B、キラル鎖部位をTTFの側鎖に導入したが、Sフェニルエチルアミンのようなかさ高いキラル分子を導入し、螺旋構造を作製した。 C、分子性コイルの内外に水素結合を有するウレタン部位を導入することで、1次元カラム構造を作製した。水素結合の導入により、分子間距離が小さくなることを利用した。 水素結合部位とキラル側鎖部位は、違った結合力でスタックするため、分子配列にゆがみが生じ、コイル構造を形成した。次に、1で得られた分子性コイルのバルク状態の電気物性評価を行った。微小電極基板上にナノコイル薄膜を作製し電気物性評価を行った。電気伝導度は2端子法を用いて行い、温度を変化させながら極低温まで測定し、温度依存性から導電挙動の機序を探ったところ、半導体的な値を示すことが分かった。 以上のことより、初年度に計画していた1については十分に進めることができた。さらに、次年度に予定していた物性評価についても着手したことから、研究目標はおおむね達成できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、令和元年度得られた分子性ナノコイルの物性評価を行う。まず初めに、導電性AFMを用いて、分子性ナノコイルの電気物性評価を行う。AFM測定により構造を明確にしたナノコイルに導電性のAFM探針を接触させ、伝導度の測定を行う。基板表面の吸着水の影響を防ぐために、真空下での測定についての検討を行い、室温から液体窒素までの領域で測定を試みる。螺旋構造の始点には金電極を蒸着し、終点部分にAFM探針を接触させて電気伝導度を測定する。更に、直線構造と螺旋構造の電気伝導度を比較し、導電性ナノコイルの伝導度形状依存性についても明らかにする。 次に、交流磁場が印加可能なMPMS装置を用い、オシロスコープを接続することでバルク状態のナノコイルの誘導起電力を探る。精確な誘導起電力を得るために、他方からのアプローチとして、電磁場を照射し、分子性コイル内に生じる誘導電流に基づくジュール熱を検知することでも電磁コイルとしての性能を追求する。
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