研究実績の概要 |
i) フェリチンケージ分解過程の直接観察(A01-3上野Gとの領域内共同研究):鉄を貯蔵タンパク質フェリチンは自己集合によってかご状構造体を形成することが知られており, ナノ材料を調製するためのテンプレートとして広く使用されてきた。このかご状構造体は溶液のpHに依存して分解及び再構成されることが知られているが, それらの開始や中間状態に関与するダイナミクスは解明されていなかった。高速AFMで, 溶液中の単一のフェリチンケージのpH依存的な分解過程を観察した結果, かご状構造体が断片に分解する前に穴が形成されることを明らかにした。MDシミュレーションの結果, 穴はフェリチンタンパク質3個で構成される3回対称チャネルの開口形成でトリガーされることを明らかにした。(Basudev et al, PCCP 2020) ii) 微小管の変形によるキネシンの運動速度変化( B01 角五Gとの領域内共研究):マイカ基板にアイランド上に平面脂質膜を形成し、さらに脂質膜を構成する正電荷脂質の量を制御することで、微小管を屈曲して基板に固定することができた。この微小管上で微小管関連運動タンパク質であるキネシンの滑走運動を高速AFMで観察した結果、微小管の変形が細胞内輸送に関与する滑走速度を制御していることが明らかになった。屈曲の曲率が異なる微小管でのキネシンの移動速度を解析したところ、曲率が大きくなるほどキネシンの運動速度が低下した。分子動力学シミュレーションでキネシンの運動速度低下の要因を探ったところ、変形した微小管ではキネシンの親和性が高まっているためであることがわかった。この結果は、キネシンの移動を制御するためのメカノセンサーとしての微小管の役割を明らかにし、微小管の機械的変形がキネシンの移動を制御する役割を果たしていることを示唆している。
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