公募研究
本研究では、生体高分子の構造的特徴の1つである「構造柔軟性」に着目し、大きく構造変化を起こすタンパク質表面に合成分子を化学修飾し、土台タンパク質の構造変化に呼応して合成分子同士の相乗効果がオン・オフされる生体高分子素子を創成することを目的とした。本年度は、アデニル酸キナーゼ三変異体(A55C/C77S/V169C)タンパク質の分子表面上で、異なる合成分子同士の相互作用制御が可能であるかどうかを検証するために、タンパク質表面上に存在する2つのシステイン残基(Cys55およびCys169)の反応性を違いを定量的に評価した。どちらのシステイン残基ともに、近傍に酸性アミノ酸残基を有している。しかし、Cys55に隣接するAsp54は、Lys50と塩橋を形成しているのに対し、Cys169に隣接するGlu170には、塩橋を形成するようなパートナー残基がなく、分子動力学シミュレーションからCys169側鎖と弱い相互作用があることが示唆された。そこで、システインに対して一当量のピレニルヨードアセトアミドを作用させたところ、Cys55の方がCys169よりも6倍高い反応性を有することがわかった。このことは、Cys169残基はGlu170との相互作用によって、ピレニルヨードアセトアミドに対する反応性が落ちていることを示している。そこで、Asp54の塩橋パートナーであるLys50をAlaに変異させたタンパク質を調製し、塩橋構造を除去した場合にCys55の反応性が低下するかどうかを検証した。しかし、予想と反して、Cys55の反応性はさらに高くなった。このことは、塩橋構造の除去によって、Cys55近傍の局所的構造柔軟性が向上したためである。以上から、隣接する酸性アミノ酸残基の存在と局所的構造柔軟性がシステインの反応性を決定する要因であることが実証された。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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